子牛の臍帯炎は、臍部(へその緒周辺)から細菌が侵入して起きる感染症です。適切な予防と早期対応で重症化を防げます。本記事では分娩〜生後管理の現場経験を踏まえ、診断から治療・予防まで具体的にまとめました。

子牛の臍帯炎は、へその緒周辺から細菌が侵入する感染症です
1. 臍帯炎とは — 早めの対策が肝心
臍帯炎は出生直後〜数週間の子牛に多く発生する臍部の細菌感染です。臍輪や断裂部から大腸菌(Escherichia coli)やストレプトコッカス、コリネバクテリウムなどが侵入して炎症や膿瘍を作ります。放置すると腹膜炎・肝膿瘍・関節炎へ波及し、成長障害や死亡につながるため、現場では“見逃さない”ことが重要です。

臍帯炎は出生直後〜数週間の子牛に多い細菌感染症です

2. 主な発生原因とリスク要因
現場で臍帯炎が起こる背景は多面的です。代表的なリスクを下にまとめます。
- 不衛生な分娩環境:汚れた床、湿気、糞尿の付着は細菌を増やします。
- 臍帯消毒の不足:出生直後のディッピング未実施や不十分な消毒。
- 初乳摂取不足:免疫グロブリン(IgG)不足は感染防御力を低下させます。
- 難産や過度な助産操作:臍帯の損傷や短縮で感染経路ができることがあります。
- 床材や保温不足:湿った床材や寒冷で免疫低下する子牛はリスク増。
ポイント:分娩前後の清潔管理と初乳の管理は、病気ゼロに最も効く対策です。

湿った床材や寒冷環境は免疫低下を招き、リスク増
3. 症状の見分け方 — 早期発見のチェックリスト
臍帯炎の症状は局所と全身の双方に現れます。以下のサインを毎回の観察で確認してください。
臍帯炎 早期チェックリスト
- 臍部の腫れ・熱感・圧痛
- 膿や悪臭のある排出物
- 子牛が臍を気にする、座りがちになる
- 発熱、食欲不振
- 跛行(関節炎を合併した場合)
進行すると腹膜炎や肝膿瘍、関節炎に波及して歩行障害や急速な衰弱を来します。見つけたらすぐに隔離・獣医相談を行いましょう。

臍部の腫れ・熱感・圧痛は臍帯炎の早期サイン!
4. 診断:現場でできること/獣医が行う検査
診断は段階的に行います。現場では視診・触診で異常を把握し、獣医が次を判断します。
- 視診・触診:腫瘤の有無、排膿の確認、圧痛の確認。
- 超音波(エコー)検査:臍管炎や膿瘍の深さ・広がりを評価。潜在性病変の発見に有効。
- 細菌培養と感受性試験:膿を採取して原因菌を特定、適切な抗生剤選定に役立てる。
- 血液検査:白血球増多や炎症反応を測定し全身感染の程度を評価。
現場の簡易診断では“視診→局所消毒→経過観察→獣医の判断”が一般的な流れです。

現場では視診・触診で腫瘤や膿、圧痛の有無をチェック
5. 治療の実際:現場優先順位と具体的措置
治療は早期が命。以下は現場で優先的に行うべき対応と獣医による対処法です。
現場で直ちにできること
- 感染子牛を清潔な場所へ隔離し、保温と安静を確保。
- 臍部の洗浄と消毒(ヨードやクロルヘキシジンでのディッピング)。
- 膿が多い場合は獣医に切開排膿の相談(素人判断での切開は避ける)。
- 初乳が不十分であれば補給を検討(獣医と相談)。
- ジャケットで矯正する
獣医が行う主な処置
- 全身性抗生剤:ペニシリン系、セフェム系など感受性に合わせて投与。
- 局所抗菌処置:膿瘍内の排膿と洗浄、必要に応じたドレナージ。
- 外科的切除:深部膿瘍や臍ヘルニア合併時は外科的対応が必要。
- 支持療法:点滴、鎮痛、栄養補助で全身状態を回復させる。
重要:抗生剤の選択・投与量・期間は必ず獣医の指示に従ってください。残留薬物管理(ミルクへの影響)も忘れずに。

全身性抗生剤は感受性に合わせてペニシリン系やセフェム系を投与
6. 予防:現場で実践すべきチェックリスト
予防が最も効果的で経済的です。下のチェックリストを分娩前後ルーチンに組み込んでください。
対策 | 実施タイミング | 要点 |
---|---|---|
分娩床の清掃・乾燥 | 常時 | 湿気を避け、床材は乾いたものを使用 |
臍帯消毒(ディッピング) | 出生直後〜数日 | 7%ヨード、クロルヘキシジンなどでしっかりと |
初乳管理 | 出生後1〜2時間以内 | 十分量(体重比で目安)と品質チェック |
助産時の最小操作 | 分娩時 | 過度な引っ張りは避ける、必要時は獣医に相談 |
隔離・観察体制 | 出生後〜数週間 | 毎日臍部の確認を行う |
現場予防ワンポイント
- 分娩前に必要な床材・消毒液を準備しておく
- 初乳の品質(比重・色)と十分量を記録する
- 発見から24時間以内に獣医へ連絡できる体制を整える

敷料や消毒液の準備、初乳の記録、観察体制の整備が予防の基本
7. Q&A(よくある質問)
Q:臍帯消毒は何を使えば良い?
A:7%ヨードチンキやクロルヘキシジンが一般的です。清潔に扱い、膜ごと優しくディップするのがポイントです。
Q:初乳が足りない場合はどうする?
A:コロストラム補充ミルクや冷凍初乳で補う方法があります。血清IgGの測定で十分摂取できたか確認すると安心です。
Q:臍ヘルニアと臍帯炎はどう区別する?
A:臍ヘルニアは腹壁の欠損による内容物突出で、炎症や膿がなければ疼痛や発熱は少ないことが多いです。触診とエコーで鑑別します。
記事のまとめ
- 原因:主に不衛生な分娩環境や臍帯消毒の不備、初乳摂取不足がリスク。難産や過度な助産操作も要因。
- 症状:臍部の腫れ・熱感・膿、子牛の元気低下や発熱、進行すると関節炎や腹膜炎に波及する。早期発見が重要。
- 治療:隔離・局所洗浄と消毒を即実施し、獣医指導の下で適切な抗生剤投与。膿瘍やヘルニア合併時は外科手術が必要になることも。
- 診断:まずは視診・触診。疑わしい場合は超音波検査や膿の細菌培養、血液検査で全身状態を評価。
- 予防:分娩床の清潔・乾燥、出生直後の臍帯ディッピング、出生後1〜2時間以内の良質な初乳給与、助産時の慎重な操作が基本対策。
- 現場のポイント:発見から24時間以内に獣医と連携できる体制を整え、毎日の臍部チェックをルーチン化することで重症化を防げる。
疑わしい症状を見つけたら放置せず早めに獣医へ相談を。予防管理の徹底が長期的な経済損失を抑えます。

臍帯炎の原因は不衛生な分娩環境・消毒不足・初乳不足が中心
参考・引用(獣医・公的資料を優先)
本記事は現場経験とNOSAI、獣医師発表、英語圏の臨床ガイド(NADIS、The Cattle Site 等)を参考に作成しています。詳細な診断・治療は必ず獣医師に相談してください。
この記事で紹介している治療法や薬剤は一般的な情報です。処方・治療は獣医師の診断に従ってください。
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