乳房炎による損失で頭を抱える酪農家の方へ。特に大腸菌性乳房炎は、細菌由来の内毒素(LPS=エンドトキシン)が全身反応を引き起こし、急速に重症化する危険があります。本記事では、発症サインの見分け方、現場で今すぐできる初期対応、そして敷料や搾乳衛生による具体的な予防策まで、実例と図解でわかりやすくまとめます。早期対応で被害を最小限に抑えましょう。
エンドトキシン(内毒素)とは? — 酪農で押さえるべき基礎
エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁に含まれるリポポリサッカライド(LPS)の総称です。乳房内で大腸菌などが増殖・破壊されるとLPSが大量に放出され、血中へ入るとサイトカインストームや血管透過性亢進を招きます。結果として乳房局所の炎症が全身症状(発熱・食欲不振・起立不能・ショック)へと移行するのです。
大腸菌性乳房炎の典型症状と注意サイン
早期発見がカギです。以下は現場で見逃してはいけないサイン:
- 乳汁が水様・糸引き・血や膿を含む
- PLテストで乳汁pHが高く緑色を示す
- 乳房局所の急激な腫脹・硬化
- 全身症状:発熱、食欲低下、第一胃運動の低下、陰門浮腫
- 進行すると起立不能・ショック状態に移行
※乳汁中のエンドトキシン活性(LAL法など)は予後の参考になります。検査可能なラボや獣医と連携しましょう。
現場で今日からできる初期対応(優先順位)
緊急対応フロー(優先順)
- 搾りきる — 乳汁中に存在する菌・LPSを物理的に除去。頻回搾乳を行う。
- 冷却 — 乳房冷却で局所炎症を抑える(冷水・アイスパック等)。
- 支持療法 — 水分補給と電解質補正。重症例は獣医の判断で点滴管理。
- 獣医連絡 — 抗菌剤選択やエンドトキシン吸着療法の検討を速やかに。
抗菌剤は重要ですが、薬剤(セファゾリン)による大量殺菌が一時的にLPS放出を増やす可能性があります。薬剤選択・投与タイミングは獣医と相談して決定してください。


予防の実践10選 — 再発を防ぐ現場管理
| 対策カテゴリ | 具体策(現場のやり方) | 
|---|---|
| 敷料管理 | おが屑の定期交換、消石灰混入で乾燥維持。湿った敷料は大腸菌増殖源。 | 
| 搾乳衛生 | プレ/ポストディッピング、乳頭の乾燥と点検、ミルカー清掃。 | 
| 暑熱対策 | 扇風・散水・通風で暑熱ストレスを軽減(夏季は発症リスク上昇)。 | 
| 栄養管理 | TMRバランスと乳酸菌などでルーメン環境を安定化。 | 
| 分娩前管理 | 分娩前2週から乳房チェックを実施。BCS管理で抵抗力維持。 | 
| ワクチン | 大腸菌ワクチンは重症化予防に有効な場合がある(獣医と検討)。 | 
| モニタリング | 発症記録、乳量変動、搾乳履歴をデータで管理。 | 
| 器具管理 | 搾乳器具とバルクの定期洗浄・消毒。 | 
| 隔離管理 | 発症群は別区画で処置し、接触感染を抑制。 | 
| 教育 | 作業員向けのチェックリストと緊急対応トレーニング。 | 

優先度は「清潔な敷料」「搾乳衛生」「暑熱対策」。これらを組み合わせることで発症率を大幅に下げられます。
現場事例(対応テンプレ)
事例(例):分娩後48時間の乳牛が朝に水様乳汁を示したため、直ちに頻回搾乳・乳房冷却・獣医へ連絡。獣医の判断で投薬と点滴を行い、48時間で症状改善、乳量は回復基調に。早期の“搾りきりと支持療法”が奏効した好例です。
※実際の記録(時刻・処置・経過)を残すことが、次の対策改善につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1:抗菌剤を使うと必ず悪化しますか?
A:抗菌剤は必要ですが、薬剤の作用で短期的にLPSが放出されるリスクはあります。獣医と相談し、支持療法を同時並行で行うことが重要です。

Q2:LAL法で乳汁のエンドトキシンを測る意味は?
A:LAL法は乳汁中のエンドトキシン活性を評価し、重症度予測や治療方針に役立ちます。検査ラボや獣医と連携して利用しましょう。
Q3:ワクチンは本当に効きますか?
A:ワクチンは重症化を抑える効果が期待されますが、万能ではありません。ワクチン導入はコスト・効果を比較し、獣医指導のもとで行ってください。
この記事のまとめ(要点)
- エンドトキシン(LPS)はグラム陰性菌の細胞壁成分で、菌の崩壊や増殖で乳房内に放出されると強い全身性炎症を招く。
- 大腸菌性乳房炎は進行が速いため、〈搾りきる〉〈乳房冷却〉〈支持療法(輸液等)〉を優先して実施し、速やかに獣医と連携することが生存率を上げる。
- 抗菌剤は有効だが注意が必要:一部薬剤では短期的にLPS放出を増やす可能性があるため、薬剤選択は獣医と協議の上で行う。
- 予防は現場管理が8割:敷料の乾燥管理、搾乳前後のディッピング、暑熱対策、分娩前チェック、TMRでのルーメン管理、必要ならワクチン導入が重要。
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