酪農現場で最も警戒すべき感染症の一つが、大腸菌性乳房炎(Coliform Mastitis:CO)です。特に環境由来の大腸菌は、糞便や汚れたベッド材から乳房に侵入し、急性症状を引き起こすことがあります。
酪農業界で10年以上現場に立つ筆者の実感として、大腸菌性乳房炎(CO)は「最も突然・重症化しやすい」感染症の一つです。特に乾乳期〜分娩後の牛は注意が必要で、わずかな不衛生が命取りになることも…。この記事では、現場経験と獣医師監修の知見をもとに、COの原因・症状・対策まで一気にわかる内容をお届けします。

大腸菌性乳房炎は酪農現場で最も警戒すべき感染症の一つ!
1. 大腸菌性乳房炎(CO)とは?
- **大腸菌(Escherichia coli)**による乳房炎の総称。
- 環境中の大腸菌が乳房組織に侵入し、炎症・組織損傷を引き起こす。
- 臨床性では急性発症が多く、重症例ではショック症状を伴うことも。

大腸菌が乳房に侵入し、急激に炎症を引き起こす感染症だよ!
2. COの原因と感染経路
感染源 | 経路・要因 |
---|---|
糞便・汚物 | ベッド材・通路・水場の汚染 |
土壌・歩道 | 雨天時の泥跳ね |
搾乳機器 | 洗浄不十分な乳頭キャップや配管 |
環境ストレス | 高温多湿による牛体の抵抗力低下 |
- 乾乳期~分娩直後はホルモン変動で抵抗力が低下しやすいため、特に要注意。
- 繁殖同期(ダブルオブシンクなど)を行う際も、個体識別・衛生管理を徹底しましょう。

高温多湿の環境ストレスで牛の抵抗力がぐっと低下!

温湿度指数について詳しく知りたい方はこちらの記事から!
3. 臨床症状と亜臨床症状の違い
臨床性CO
- 急性:24–48時間以内に発症
- 乳房の赤み・腫れ・熱感
- 血性・血清様の乳汁
- 全身症状(発熱、下痢、冷感、食欲不振)

乳汁に血が混ざることも…早期発見がカギだ!
亜臨床性CO
- 視覚的異常なし
- SCC(Somatic Cell Count)測定で判明
- 乳量・乳質の慢性的低下
- 酪農経営への潜在的損失大

見た目は正常でも、SCC検査で潜む乳房炎を発見!
4. 診断方法のポイント
- 視診・触診
- California Mastitis Test(CMT)
- SCCカウンターによる定量測定
- 乳汁培養検査
- E. coliの同定
- 耐性プロファイルの確認
- 高度診断法(PCR、DNAシーケンシングなど)
Tip: 乳汁培養で陰性となる場合(約30%)もあるため、繰り返し検査や遺伝子検査の活用がおすすめです。

乳汁培養検査で原因菌を特定!E. coliの同定も重要
5. 治療戦略:抗生物質から支持療法まで
- 軽症例:自然治癒の期待 → 抗生物質は最小限
- 重症例:
- フルオロキノロン系(エノキサシンなど)
- 第3世代セファロスポリン系
- 点滴 / NSAIDs(デキサメタゾン等)
🩺 注意事項:
- 食用牛への抗生物質投与は残留基準に注意
- 投薬記録と製剤添付文書の遵守が必須

軽症なら自然治癒も期待!抗生物質は必要最小限に抑えよう
うちの牧場ではセフロキシムを使用しています。

6. 清潔管理で防ぐ!効果的な予防策
- 牛舎・ベッド材
- 毎日の交換・乾燥を徹底
- 通路・水場
- 高圧洗浄・排水改善
- 換気・温湿度管理
- 夏季は特に換気量アップ
- 搾乳衛生
- 搾乳前:乳頭洗浄 → 消毒 → 乾燥
- 搾乳後:ディップ保護
- 機器メンテナンス
- 定期的な分解洗浄と消毒
現場経験から一言:暑い季節こそ「小さな泥だまり」が大きな感染源に。毎日の記録とチェックリスト運用が効果的です。

牛舎は毎日ベッド材交換&乾燥が感染予防の基本!
うちの牧場ではエスカリウを撒いています。
7. 抗菌薬耐性・代替療法の最新動向
- ESBL産生E. coliの増加:β-ラクタム系・アミノグリコシド系耐性
- 代替療法の研究:
- バクテリオファージ療法
- 植物性抗菌物質(ティーツリーオイル等)
- 免疫調節剤

ESBL産生E. coliが増加!抗菌薬耐性問題が深刻化
8. よくある質問(FAQ)
Q1. 大腸菌性乳房炎の発生ピークはいつ?
- 乾乳期〜分娩後1週間がもっともリスク高。
Q2. SCCを下げる簡単な方法は?
- 搾乳前後の「乳頭ディップ」「機械清掃」の励行。
Q3. ワクチンは本当に効果ある?
- J5ワクチンは補助的に有効。ただし個体差あり。
Q4. 大腸菌性乳房炎と他の細菌性乳房炎(黄色ブドウ球菌など)の違いは?
- A4. 大腸菌性は環境感染が主で、急性・重症化しやすいのが特徴。対して黄色ブドウ球菌は慢性化・再発しやすい点で異なります。
Q5. 一度かかった牛は再発しやすい?
- A5. 免疫力や乳房構造に変化が残るため、再発リスクあり。乾乳期のケアがカギです。
9. まとめ:理論×現場経験で守る“健康乳房”
大腸菌性乳房炎(CO)は、「清潔管理+早期発見+的確な治療」が鉄則。
この記事で紹介した現場のリアルなノウハウを取り入れ、ぜひ日々の管理にお役立てください。

大腸菌性乳房炎は清潔管理・早期発見・適切治療が基本!
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