日本の生乳生産量は季節による振れ幅が大きく、春にピーク、夏に低下、冬に再び増加する典型的なパターンが続いています。本記事では、農林水産省・J-Milkなどの2025年最新速報(~9月)をもとに、月別の生乳生産量データをグラフと表で整理。都道府県別の特徴、夏場の生産低下を防ぐ現場対策、余剰対策としての加工振り分けまで、酪農現場と乳業関係者に役立つ実務的な視点で解説します。
2025年の月別ポイント(主要データ)
以下は主要月の抜粋(単位:トン、前年同月比)。詳細な月次表・CSVは政府統計(e-Stat)から取得できます。
| 月 | 生乳生産量(トン) | 前年同月比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 5月 | 663,438 | +1.2% | 出産ピークで高生産 |
| 8月 | 604,090 | +2.0% | 6か月連続増も夏場の暑さで伸び悩み |
| 9月 | 583,970 | +0.2% | 秋入りの回復兆しは限定的 |
注:上表の月別数値は農林水産省の月次速報を参照しています(公表済)。各月の統計表・CSVはe-Statの該当ページで確認してください。
実際の牧場のデータ

| 一頭あたりの月別乳量 | 2022 | 2023 | 2024 |
| 4月 | 32.7 | 31.9 | 32.9 |
| 5月 | 32.7 | 31.5 | 31.6 |
| 6月 | 31.9 | 31.6 | 31.9 |
| 7月 | 29.8 | 28.8 | 30.7 |
| 8月 | 27.9 | 27.9 | 29.9 |
| 9月 | 27.9 | 29.5 | 30.4 |
| 10月 | 28.1 | 30.7 | 31.3 |
| 11月 | 30.3 | 30.2 | 31.7 |
| 12月 | 29.9 | 31.0 | 32.4 |
| 1月 | 31.4 | 31.8 | 34.2 |
| 2月 | 30.8 | 32.8 | 34.4 |
| 3月 | 31.6 | 32.5 | 34.6 |
こちらは実際の牧場のデータを月別に出荷乳量を棒グラフ、一頭あたりの乳量を折れ線グラフにしたものです。
出荷乳量は頭数によって大きく変わってしまうので、一頭あたりの乳量を見ることにします。
一頭あたりの乳量では、最小は2022年、2023年の8月で27.9kg/頭。最大は2025年の3月で34.6kg/頭とその差は6.7kg。100頭搾乳している牧場では出荷乳量が670kgも減ることになります。
※一頭あたりの乳量をみた場合も分娩頭数(分娩後2ヶ月でピーク)で変わるのでそのことも留意すること。
なぜ「春は多く・夏は少ない」のか — 要因整理
- 生理サイクル:出産が春に集中するため泌乳量が増える。
- 気温ストレス:ホルスタイン主体の日本の乳牛は暑さに弱く、7〜10月は泌乳量が落ちやすい。
- 飼料と管理:高温期は飼料摂取量が減り、消化吸収効率も低下する。

オランダ出身のホルスタインは寒さに強いけど暑さに弱いよ!
なぜ冬に生乳生産量が増えるのか?
乳牛の生理的特徴 乳牛は暑さに弱い動物で、夏場は高温多湿の環境が体力を消耗させ、1頭あたりの泌乳量が減少します。一方、冬場は気温が低下し、乳牛のコンディションが向上するため、生乳生産量が自然と増加します。
この季節変動は、乳牛の体温調節メカニズムによるもので、寒冷期に体が効率的にエネルギーを乳分泌に回せるためです。さらに、冬は飼料の消化吸収率が向上し、子牛の出産シーズン(秋~冬)と重なるため、全体の生産量が春先に向けてピークを迎えます。
例えば、北海道の酪農地帯では、冬の厳しい寒さが逆に乳牛の活力を高め、全国の生乳生産の約56%を担っています。
ただし、この増加はメリットだけでなく、過剰供給のリスクも伴います。
冬の生乳生産量 最新統計データでみる実態
農林水産省の「牛乳乳製品統計調査」によると、日本全体の生乳生産量は近年、年間約730万トン前後で推移していますが、季節別では冬~春に集中します。2024年のデータでは、総生産量が約737万トン(前年比+1.1%)の見込みで、冬期(12月~2月)の月平均生産量は約60万トン超と、夏期(7月~9月)の約55万トンに比べて10%以上の増加が見込まれます。
冬の生乳の魅力
成分増加でコクのあるおいしい牛乳 冬の生乳生産量増加の副産物として注目されるのが、乳成分の質の向上です。寒冷期は乳脂肪分やたんぱく質(カゼイン)の含有率が5~10%上昇し、牛乳のコクやまろやかさが際立ちます。
これは、乳牛が体温維持のため脂肪を多く合成するためで、ホットミルクやチーズ、ヨーグルトに最適です。
Jミルクのクイズ投稿でも、「冬は生乳の生産量が増え、消費量が減る」と指摘されており、冬限定の「おいしい牛乳」としてPRされています。
夏の生乳の魅力
夏場は気温上昇で牛の食欲が落ちやすく、乳脂肪分が冬に比べて控えめになります。また水分を多く摂るため、味わいはより軽やかで、すっと飲める爽快な口当たりに。
- 後味がさっぱりして飲みやすい
- ミルク特有のクセが少なく、すっきりとした風味
- のど越しが軽く、暑い日でもゴクゴク飲める
- 浅煎りコーヒーや紅茶との相性も抜群
地域別の特徴:北海道依存と都府県の違い
日本の生乳生産は地域偏重が続いており、北海道が全国シェアの大部分を占めます。北海道は広大な草地と酪農基盤により安定生産を担っていますが、都府県部は飲用向けが中心で離農や飼養頭数減少の影響を受けやすくなっています。
需給への影響と現場でできる実務策(農家・乳業向け)
季節変動が需給バランスに与える影響と、すぐに実行可能な対策を示します。
現場対策(短期・中期)
- 暑熱対策の優先投資:牛舎の換気強化・スプリンクラー・ファン、夜間冷却などで夏の泌乳低下を抑制。
- 飼料調整:高品質飼料・TMRの配合見直しで高温期の摂取低下に対応。
- 加工振り分けの運用:冬の余剰は脱脂粉乳やバターに振り分け在庫化して需給ピークを平準化。
現場チェックリスト
- 夏前に牛舎冷却設備の点検・整備を完了する
- 生乳の用途(飲用/加工)別で月次振分ルールを設定
- 地域の搬送・在庫キャパと連携し、過剰時は加工ルートを確保

政策・業界の見通し(2025年度)
業界団体や政府の需給見通しは、気候・搾乳牛頭数等を取り込んだモデル推計に基づいており、夏場の猛暑リスクを織り込んだ試算が公表されています。生乳全体では微減〜横ばいの見通しだが、地域差が拡大する可能性が示唆されています。
実務で使えるデータ活用法(推奨ワークフロー)
データを業務に落とし込むための簡単な手順:
- 政府月次(e-Stat / MAFF)から月別CSVをDLして自牧場の生産実績と突合。
- 夏場の前年比低下率を計算し、必要な冷却投資の優先度を判断。
- 冬の見込み余剰量を基に加工振分量を決め、乳業・加工業者と事前合意を作る。
まとめ
- 結論: 2025年は前年比で全体は横ばい〜微減の見込みだが、月別では「春ピーク/夏低下/冬余剰」の季節パターンが顕著で、需給調整が急務。
- 農林水産省の月次速報は5月で663,438トン(前年同月+1.2%)等の月別データを示している。
- J-Milkの需給見通しは気候と搾乳牛頭数を織り込んだ推計で、地域差(北海道増、都府県減)が出ている。
- 夏場の暑熱対策(牛舎冷却・飼養管理)を優先投資して1頭乳量低下を抑える。
- 冬の余剰は脱脂粉乳・バター等の加工へ振り分ける運用フローを整備し、販路・在庫管理を連携する。
出典:農林水産省「牛乳乳製品統計」(月次速報、2025年)/e-Stat(牛乳乳製品統計データ)/J-Milk:需給見通し資料。本文中の数値は上記速報値に基づきます。
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