牛乳廃棄(牛乳ロス)は、2021年の『生乳5000トンの危機』以来、繰り返し話題になる日本の深刻な食品ロス問題です。生産過剰や学校給食の季節変動、加工能力の限界などが重なり、年間数千トンの生乳が廃棄されています。本記事では最新データをもとに原因を解説し、家庭・業界で今すぐ実行できる具体的な解決策を紹介します。
1. 牛乳廃棄の現状(数字で見る)

日本の生乳生産は年々変動しますが、近年は北海道を中心に生産が増える一方、飲用向けの需要は伸び悩みが続いています。2024年度の全国生乳生産量は約7,373千トン(前年度比+0.7%)と報告されています。
過去に話題となった「年末の生乳5000トンの廃棄危機」は、需給の急変と流通の制約が重なって起きた事例として広く注目されました。
また、スーパー・生協の売れ残りだけで推計4,723トンという調査値が示されるなど(2015年流通経済研究所調査)、家庭や業務用を含めると相当量の牛乳ロスが発生していることが分かります。
2. 主な原因:なぜ生乳が余るのか
(1)需給の季節変動と学校給食・業務用需要の減少
日本特有の要因に、学校給食の長期休業(夏休みや春休み、年末年始)や外食・業務用需要の季節変動があります。コロナ禍では業務用需要が大幅に落ち込み、需給ギャップが顕在化しました。これが「年末の大量余剰」につながった背景の一つです。
(2)生産調整の難しさ:牛は“止められない”生産者物
牛乳は牛の生理に依存するため、短期間で生産をゼロにすることは困難です。急に搾乳を止めれば乳房炎等のリスクが高まり、結果的に廃棄や早期廃用が増える可能性があります。これが生産側の調整余地を狭めています。
(3)加工・在庫の行き先不足(バター・脱脂粉乳在庫の積み上がり)
生乳を乳製品に振り替えても、バターや脱脂粉乳の在庫が積み上がると需給調整の効果は限定的です。農水省と業界の見通しでは、バターや脱脂粉乳の在庫が増加傾向にあり、年度末の在庫は高水準になる見込みです。
3. 環境・経済への影響
環境面:牛乳生産は水・飼料・飼育による温室効果ガスが関わるため、廃棄は資源の浪費と温室効果ガス排出の増加を招きます。乳製品在庫の冷凍・保管にもエネルギーが必要です。
経済面:廃棄による直接的損失は酪農家の収入悪化につながります。特に戸数減少や飼料価格高騰が続く中では、廃棄コストが離農の引き金になりかねません。需給悪化は地域経済にも影響します。
4. 短期的に効く対策(家庭・流通)
(A)賞味期限の見直し・延長
企業レベルでは製造・検査データに基づき賞味期限を延長する動きが出ています。たとえば一部メーカーは牛乳の賞味期限を2日延長する取り組みを発表しており、家庭や店舗での廃棄抑制に寄与します。
(B)消費喚起キャンペーンと業務用の代替利用
政府や業界は消費喚起キャンペーン(地域フェア、学校給食での消費促進、PR等)や、加工振替(バター・練乳・チーズへの仕向け)を短期対策として実施しています。家庭では「牛乳を料理に使う」レシピの普及が即効性があります。
(C)小売の商慣習見直し(返品・入替ルールの改善)
売れ残りや返品に関する商慣習(いわゆる「3分の1ルール」など)の見直しは、流通段階での廃棄削減に直結します。業界ワーキンググループの検討が進行中です。
5. 長期的な解決策(産地・政策・輸出)
(A)輸出促進と長期保存品の開発
長期保存できる製品(ロングライフ牛乳や脱脂粉乳・チーズなど)の輸出振興は在庫リスクを緩和します。アジア市場向けなど販路多角化が重要です。
(B)飼料自給率向上とコスト構造の改善
飼料の国産化(飼料米など)や効率的な飼養管理でコスト圧力を緩和し、長期的に安定した生産体制をつくることが必要です。

(C)政策的支援と需給調整メカニズムの整備
国・業界の連携による在庫管理(例えばJミルクの基金や在庫削減事業)や、生産調整のための支援策は長期的な安定に不可欠です。
6. 家庭で今すぐできる具体アクション(5つ)
- 賞味期限は「目安」として冷蔵保存を徹底。開封後は1〜2日で使い切る。
- 牛乳を活用する定番レシピをストック(スープ、プリン、パン、ホワイトソースなど)
- 訳あり・消費期限近い商品を選んで買う(福袋やセール利用)
- 地域の消費キャンペーンに参加・シェアして需要喚起
- 小売での大量購入を控え、必要量を買う習慣をつける
8. まとめ(すぐできる3つの行動)
- 家庭:開封後は早めに使う・レシピで消費する(賞味期限を賢く使う)。
- 小売・流通:賞味期限表示や返品ルールを見直し、在庫保持を最小化する。
- 業界・政策:在庫管理・輸出振興・飼料自給を並行して進める(長短の対策の両輪)。
すぐ使える:牛乳の簡単活用レシピ(3例)
- ミルクスープ(牛乳+ブイヨン+季節野菜) — 開封後1日以内で簡単消費。
- 牛乳プリン(牛乳・卵・砂糖) — 保存は冷蔵で2〜3日。
- ホワイトソース(バター・小麦粉・牛乳) — パスタやグラタンに活用。

参考・出典(抜粋)
- 2021年の年末の「生乳5000トン廃棄の懸念」関連報道(解説記事)など。
- 2015年 流通経済研究所:スーパー・生協における牛乳の廃棄推計(4,723トン)を引用した分析。
- 農林水産省/J-ミルク「生乳及び牛乳乳製品の需給見通し」等(生乳生産量・在庫推計)。
- 江崎グリコ:牛乳商品の賞味期限を2日間延長するプレスリリース(2025)。
- よつ葉乳業:牛乳類の賞味期限延長に関する社内発表(2025)。
- 農水省・業界資料:バター・脱脂粉乳の在庫見通しと需給報告。
(注)本文中の数値・見通しは公開資料・業界発表を基にしています。最新の公式数値は農林水産省・J-ミルク等の原資料をご確認ください。
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