2024年11月に福岡県で国内初確認されたランピースキン病(LSD)は、2025年の政令指定により家畜伝染病と同等の恒久的な防疫対象となりました。本記事は、症状の見分け方、感染経路、ワクチンや補償の実務手続きまで、被害を最小化するための農家向けチェックリストとともに、公式一次資料を基にわかりやすく解説します。
要点
- ランピースキン病は「人へ感染しないが」牛の生産性を大きく下げる感染症。早期発見と吸血昆虫対策が最重要。
- 2025年の恒久格上げにより、殺処分や移動制限、都道府県によるワクチン命令が常時可能となった。行政通知・支援情報を常に確認する。
- 農家が現場で取るべきは「日常観察の仕組み化」「疑い例の迅速隔離と連絡」「ワクチン接種計画の把握」「経済的損失に備えた共済・補償手続きの準備」。
1. ランピースキン病(LSD)とは:基礎と農場で見るべきポイント
ランピースキン病ウイルスはCapripoxvirus属に属し、牛や水牛で皮膚結節を主に引き起こします。致死率は一般に低めですが、乳量や体重の低下、繁殖障害など長期的な生産性低下が問題です。現場で見落としやすい症例もあるため、日々の観察で微妙な乳量低下や皮膚の硬結を見逃さない仕組みが必要です。
2. なぜ「恒久格上げ」されたのか(行政の意図と実務的影響)
恒久格上げは、発生対応を一時的な措置ではなく常時の防疫体制で扱うための法的整備です。これにより、都道府県は迅速に移動制限や殺処分命令、ワクチン接種の命令を行えるようになりました。農家側は「対応が速くなる=封じ込めは期待できるが、その間の現場負担は増える」ことを理解し、事前準備が不可欠です。
3. 症状と感染経路(現場での見分け方)
主な症状(農場で観察すべきポイント)
- 皮膚の結節(直径2〜5cm程度)—頭部・四肢・体幹に発生。
- 発熱(しばしば39〜41℃)、食欲低下、乳量著減(乳牛)。
- 結節の潰瘍化や瘢痕化:回復後も品質低下や二次感染のリスク。
主な感染経路
- 蚊・サシバエ・マダニなど吸血昆虫による機械的媒介(最も重要)
- 直接接触や汚染された飼具、給餌・給水経路
- 海外からの侵入リスク(飼料原材料や航空貨物など)—国際動向にも注意
4. 農場で今すぐできる「三本柱」対策(早期発見・ワクチン・昆虫対策)
防疫の実務は大まかに次の三点で構成します。以下は現場で使える具体策です。
① 早期発見(日常観察のルーチン化)
- 全群を小ブロックに分け、担当者を明確にする(複数名でのクロスチェック推奨)。
- 日次で乳量・食欲・体温(必要に応じて)を記録し、異常値の閾値を決める。
- 皮膚観察チェックリスト(頭部・耳・背中・四肢・乳房)を作成し、写真で比較保存。
② ワクチン接種(行政連絡とスケジュール確認)
- 地域でワクチン接種指示が出た場合は迅速に対応。接種計画・対象牛群を事前に想定しておく。
- 副反応のモニタリング方法と記録フォーマットを用意する(接種日・製造番号・ロット記録)。
③ 昆虫対策(ベクターコントロール)
- 環境整備:周辺の水たまり除去・排水改善・雑草管理。
- 物理的対策:網戸・防虫ネット、牛舎の外灯制御。
- 薬剤対策:牛体処理薬・施設内空間処理(薬剤使用はラベルと獣医指示に従う)。
5. 疑い例が出たときの「現場フローチャート」(すぐ使える手順)
- 疑い例を即時隔離(別区画・別通路で接触遮断)。
- 獣医(地域のNOSAIやかかりつけ)に写真と症状を送付、オンライン診断を受ける。必要ならサンプル採取。
- 保健所/家畜保健衛生所へ報告(自治体の指示に従う)。
- 疫学調査に協力(移動履歴・導入履歴・飼料履歴の記録を提出)。
- 行政の指示(移動制限・殺処分・ワクチン)に沿って対応、補償申請準備を行う。
6. 経済的影響と補償・共済(農家が押さえるポイント)
発生時の直接損失は「殺処分による売却損」「乳量低下」「繁殖損失」が中心です。自治体・国の補償制度があるため、手続きのタイムラインを把握して申請遅延を避けてください。共済(NOSAI)や民間保険の適用範囲も事前に確認し、被害発生時のキャッシュフローを想定しておきましょう。
| 項目 | 農家が行うこと |
|---|---|
| 補償請求 | 行政発表のフォーマット準備、被害記録の保存(写真・体重・乳量データ) |
| 共済/保険 | 加入内容の確認(除外条項の有無)、必要な証憑の確認 |
| 業務継続 | 代替供給ルート・出荷停止時の出荷計画を事前に作る |
7. 行政・専門機関への連絡先(準備しておくこと)
地域の家畜保健衛生所、NOSAI、都道府県の畜産担当窓口の連絡先リストをスマホに保存しておきましょう。連絡時に必要な情報:農場所在地(経営体名)、発見日時、該当牛の頭数・症状の概要、写真。
8. まとめ(農家が今すぐやること)
- 毎日の群観察をルーチン化し、異常を見つけたら即隔離・獣医連絡。
- 都道府県のワクチン・補償情報を常にチェックし、接種時は記録を徹底。
- 昆虫対策を年間運用化(環境整備+物理的対策+薬剤管理)。
- 補償・共済の申請フローを事前に確認し、被害時のキャッシュフローを想定する。
免責・出典
本記事は農林水産省、都道府県の公表資料、獣医・学術論文および現場での実務経験を基に作成しています。最新の法令・行政発表や地域の指示が最優先です。具体的な手続き・法解釈は都道府県窓口や獣医師にご確認ください。
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