子牛の生存率と将来の生産性は、生まれて最初に飲む初乳(colostrum)の質で大きく左右されます。初乳に豊富に含まれる免疫グロブリンIgGは、新生子牛が病気と戦うための“最初の盾”です。本記事では、IgGの役割、現場でできる測定方法、給与の手順、濃度を高めるための管理テクニックを実務目線で分かりやすく解説します。

初乳は子牛の最初の免疫の盾!IgGで病気に備える
なぜIgGが重要なのか?
- 胎盤移行がない:牛は胎盤を通して母体から抗体を受け取れないため、出生後に初乳からIgGを得る必要があります。
- 病気予防:十分なIgGがある子牛は、下痢や肺炎などの感染症に強く、生存率と成長が安定します。
- 長期効果:初乳期の管理は、離乳後の成長や将来の泌乳成績にも影響します。
ポイント:初乳は「栄養」だけでなく「免疫」の供給源です。タイミングと量が命を左右します。

牛は胎盤で抗体をもらえない!初乳でIgGを補給
初乳中のIgGの目安(数字の整理)
- 初乳(colostrum)中の理想的なIgG濃度:約50 mg/mL以上が目安。
- 50 mg/mL = 50 g/L(1 Lあたり50グラムのIgG)
- 子牛の血中IgG(受動移行の目安):一般に**1,000 mg/dL(=10 g/L)**以上を良好とする指標がよく用いられます。
- 初回給与のIgG総量目標:200 g以上。
- 例:IgGが50 g/L(=50 mg/mL)の初乳を4 L与えれば、50 g/L × 4 L = 200 g で目標達成。
注意:単位(mg/mL、g/L、mg/dL)が混在します。初乳の濃度(mg/mL)と血中(mg/dL)は別の尺度なので混同しないこと。

初乳4LでIgG総量200 gを目標に
初乳の与え方
- タイミング:分娩後1時間以内に初回投与。遅くとも2時間以内を目標に。腸の吸収能(AEA)は時間とともに低下します。
- 量:体重のおよそ**10%(例:体重40kgなら約4L)**を初回に与える。
- 品質確認:Brix屈折計で簡易チェック(下記参照)。低品質なら代替初乳や凍結保存してある高品質初乳を使用。
- 温度管理:給餌する初乳は体温近く(約38℃前後)に温めると飲みやすい。
- 追給:24時間以内に合計で目標IgG量に達しているか確認。必要なら追加給与。

初乳は生後1〜2時間以内に!吸収率が落ちる前に
現場で使えるIgG測定法
Brix屈折計(現場で最も実用的)
- 初乳のBrix値が22%以上であれば、一般にIgGが50 mg/mL程度と推定されます。
- メリット:即時・低コスト・簡単。日常管理に最適。
カラーメーター(簡易キット)
- 密度や色差から推定するタイプ。Brixと組み合わせると精度向上。
ELISA(ラボ)
- 研究・正確な数値が欲しい場合に。時間と費用がかかるため、日常管理には不向き。
IgGを高める・品質を安定させる管理テクニック
- 乾乳期の栄養管理:陰イオン塩の使用などで初乳中IgGが向上した事例あり。
- 分娩前ワクチン接種:母牛に適切なワクチンを投与すると、初乳中抗体価が上がることがあります(病原体による)。
- 加熱処理(パスチャライゼーション):60℃で60分の加熱は細菌を減らしつつIgGを比較的保持します。現場では注意して実施を。
- 高圧処理:工場レベルでの処理で病原体を低減し、IgG活性を保持する方法。設備投資が必要。
- プーリング(混合):複数頭の初乳を混ぜて均一化する。ただし低品質の初乳で希釈されるリスクに注意。

乾乳期の栄養管理で初乳IgGアップ
よくあるトラブルと対処
- 子牛が飲まない:温度調整、反射的授乳(胃チューブ)や少量ずつ複数回給与を検討。
- 初乳の品質が低い:ストックの凍結初乳、あるいは市販の移行補助製品を利用。プーリングは慎重に。
- 受動免疫移行不全(FPT)が疑われる場合:血中IgG測定(ラボ)や血漿総蛋白(TP)で評価し、必要なら早期治療を行う。

FPT疑いは血中IgGやTPで確認。早期対応がカギ
現場チェックリスト(出荷前に確認する短い項目)
- 分娩後1時間以内に初回給与したか
- 初回給与量は体重の約10%か(例:4L)
- Brixで初乳をチェックし、22%未満なら代替を用意したか
- 初乳は適温(約38℃)で与えたか
- 24時間以内にIgG総量200 gを目標にしたか

24時間以内にIgG総量200gを達成した?
FAQ(現場でよくある質問)
Q. Brixが20%でも大丈夫?
A. 目安は22%以上ですが、20%台でも役には立ちます。目標IgG総量(200 g)に達するよう量で調整してください。
Q. 凍結保存の初乳はどう扱う?
A. ゆっくり解凍して加熱しすぎないよう注意。解凍後は早めに使用。
Q. 加熱処理でIgGが壊れないか?
A. 適切な温度管理(例:60℃・60分)であれば多くのIgGが保持され、細菌も減らせます。ただし過度の加熱は抗体活性を損ないます。
まとめ(要点)
- 初乳IgGは子牛の初期免疫の基盤。分娩後1〜2時間以内に適量・適品質の初乳を与えることが最優先です。
- 現場ではBrix屈折計が実用的。22%を基準に管理し、IgG総量200 gを目指すと実効性が高い。
- 飼養管理(乾乳期、ワクチン、衛生管理)で初乳品質は改善できる。実践的なチェックリストで日々点検を。

Brix 22%以上を確認して質を確保
この記事が、現場での初乳管理を見直すきっかけになれば嬉しいです。気になる点や、現場の数値(Brix値や給与量)を教えていただければ、より具体的なアドバイスを作成します。コメントや質問、大歓迎です。
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