2025年12月、農林水産省の「輸出に取り組む優良事業者表彰」で、鹿児島を代表する二つの事業体――和牛の輸出拡大を進める株式会社カミチクと、生鮮カンパチブランド「海の桜勘」を海外へ広げた垂水市漁業協同組合――が農林水産大臣賞を受賞しました。本稿では受賞の背景、両者の具体的な取り組み（輸出先・品質管理・通年供給体制）、そして今後の業界への示唆を現地情報と公的資料を基にわかりやすく解説します。
表彰の位置づけと今回の受賞者
「輸出に取り組む優良事業者表彰」は、農林水産物・食品の海外展開で優れた成果を上げた事業者を官民で表彰する制度です。2025年度の受賞では、ユズ加工の「黄金の村」など複数の事業者とともに、カミチクと垂水市漁協が農林水産大臣賞に選ばれています（大賞複数選出）。この選定は、単なる輸出数量だけでなく「品質管理・安定供給・現地ニーズ対応」が重視された結果です。
カミチク：和牛輸出の実務（何をどうやって評価されたか）
ポイント1 — 生産〜加工〜販売をつなぐ一貫体制
カミチクは繁殖・肥育から加工、販売まで自社またはグループで一貫して管理する体制を敷き、品質のトレーサビリティや衛生管理を確保しています。こうした6次産業化の取り組みが、輸出先の厳しい規制・検疫基準へ対応する基盤となっています。
ポイント2 — 相手国に合わせた仕様提案と現地支援
輸出先ごとの需要に合わせ、カット仕様や包装をカスタマイズするだけでなく、現地での技術指導（カット指導・衛生管理）を行う点が高く評価されています。農林水産省のフラッグシップ輸出産地認定にも名を連ね、輸出先は米国、EU、シンガポール、香港、ベトナム、タイなど複数。（企業発表による）
実務チェックリスト（カミチクの好事例から学ぶ）
- 輸出規格・動物衛生基準を満たす工程の公式化（書類化）
- 現地バイヤー向けにカット提案のプロトタイプを用意
- 海外拠点や現地パートナーと連携したアフターサポート体制
- 品質を可視化するデータ（栄養値・検査結果）の同梱
垂水市漁業協同組合：『海の桜勘』の海外展開と品質管理
ブランドと環境—「海の桜勘」の強み
垂水市漁協の養殖カンパチ「海の桜勘」は、錦江湾の海水環境と独自の飼料配合で安定した身質を実現しており、県のブランド認証「かごしまのさかな」も取得しています。通年で安定供給できる生産体制が海外販路開拓のカギです。 :
加工・衛生体制と販路の広がり
漁協が所有する加工場で国際規格を取得し、生鮮のまま米国、シンガポール、香港などへ輸出。さらに、JAL国際線のファーストクラスラウンジなどでの提供実績が、プレミアム需要の獲得につながっています。海外の高付加価値チャネルでの露出は、ブランドの認知向上に直結します。
実務チェックリスト（垂水事例からの学び）
- 加工場の国際規格取得（HACCPなど）と衛生管理のルール明文化
- 通年供給を支える餌の計画と養殖ロット管理
- 航空貨物の輸送管理（冷蔵チェーン）の手配と信頼性評価
- 高付加価値販路（レストラン・航空ラウンジ等）をターゲットにしたブランディング
今回受賞が示す業界的意義と今後の展望
本受賞が示すのは「量」ではなく「品質管理・安定供給・現地適合力」の重要性です。公的支援（フラッグシップ認定など）と現場の実務力が噛み合ったとき、初めて継続的な輸出が成立します。規模の大小を問わず、以下の点を優先すると実務的な再現性が高まります。
- 工程の書類化（衛生・検査・トレーサビリティ）
- 需要に合わせた“製品仕様（カット・パッケージ）”の設計
- 冷蔵チェーンと通関業務の標準化
- 高付加価値チャネルを狙ったブランド演出
また、地方の強み（地域資源・気候・飼料）を生かした差別化が鍵であり、自治体や業界団体と協働した販路開拓が成功の王道です。公的な受賞・認定は販路開拓で大きな切符になるため、制度活用も戦略に組み込むべきです。
FAQ（よくある質問）
Q1. 個人でも「海の桜勘」やカミチクの牛肉を買えますか？
A. はい。漁協や企業の直販ページ、または提携する通販サイト・直売所で購入できるケースが多いです（在庫・季節性に注意）。垂水漁協は季節商品販売の案内を公開しています。
Q2. 小規模事業者でも輸出に取り組めますか？
A. 可能ですが、規制対応（衛生証明・検疫）や安定供給がハードルになります。まずは国内の高付加価値販路や小ロットでの試験輸出、市場調査を行い、徐々に工程の書類化を進めるのが現実的です。
Q3. 受賞内容の一次情報はどこで確認できますか？
A. 農林水産省の表彰情報や、受賞事業者（カミチク、垂水漁協）の公式発表・プレスリリースで確認できます。
出典：農林水産物等輸出促進全国協議会・報道発表、カミチク公式サイト、垂水市（海の桜勘）関連資料、JALプレスリリース等。主要出典は本文中に記載しています。
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