酪農経営で最も多いテーマの一つが『搾乳回数』です。従来の1日2回(朝夕)に対し、1日3回への移行は産乳量を増やす一方で飼料費・労働負担も膨らみます。本記事では、公的研究と牛群検定の数値を元に『2回と3回の違い』『経営への影響』『導入前に必ず確認すべきポイント』を分かりやすく解説します。
なぜ搾乳回数が経営に直結するのか
搾乳回数は産乳量・乳成分・労働時間・飼料消費量・乳房健康に同時に作用します。 経営上の意思決定は「追加で得られる乳量(収入)」と「増えるコスト(飼料・労働・設備)」を比較する作業です。本稿は研究データと現場視点を結び付けて、実際の判断に使える形でまとめます。

2回と3回の数値比較
以下の値は複数の研究・牛群検定報告を踏まえた実務目安です(牧場条件により変動します)。
| 指標 | 1日2回(標準) | 1日3回 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 平均産乳量(目安) | 基準(例:305日で9,000〜10,000kg) | 平均+5〜15%(研究では最大20%超の例あり) | 泌乳初期に効果が大きい。個体差あり。 |
| 乳脂肪率 | 比較的安定 | やや低下する傾向 | 乳脂肪率低下しても総脂肪量は増える場合あり |
| 飼料給与量 | 標準 | 濃厚飼料でおおむね1.2〜1.4倍 | 飼料効率が下がりやすい。栄養バランスが鍵。 |
| 労働負担 | 朝夕の固定勤務で計画しやすい | 手動だと作業時間が増える(ロボットで軽減可) | 人員配置とシフト設計が必要 |
| 乳房健康(SCC等) | 標準管理で安定 | 適切管理でSCC低下の報告あり。ただし間隔短すぎると乳頭損傷リスクあり | 間隔は6時間以上を目安に管理 |

具体的な効果
効果が出やすい条件:高泌乳群、泌乳初期牛が多い群、搾乳管理が整っている牧場。 効果が出にくい/注意が必要な条件:低乳価環境、飼料コストが高騰している時、労働力が不足している牧場。
試算例(概念式)
増収(概算) = 現状の総乳量 × 産乳量増分割合(例:+10%) × 乳価 増コスト(概算) = 追加飼料費 + 追加労働費 + 追加運用コスト(電力等)
まずは上記の式で「乳価別・規模別の分岐点」を試算してください。具体的なテンプレートは本文後半にあります。
導入前のチェックリスト(必須)
- 短期トライアル計画:6〜8週間を目安に試験群を設定(少なくとも30頭規模または全群の20%以上が望ましい)。
- 基礎データの取得:試験前30日分の1日当たり乳量、1回当たり乳量、SCC、体条件スコア、飼料給与量を記録。
- 飼料調整プラン:増産に対応するための濃厚飼料と粗飼料バランスを策定。飼料効率の低下を抑える戦略を組む。
- 労働とシフト計画:人手で対応するかロボット導入による自動化かを比較。必要ならパイロット的にロボットを一基導入して検証。
- 乳房健康のモニタリング:SCC・乳房触診・乳頭の損傷確認を週次で実施。
実務的な導入手順(段階的)
ステップ1:現状データの収集(30日)。
ステップ2:トライアル群を決め、3回実施(6〜8週間)。
ステップ3:中間評価(毎週のSCC・1回量をチェック)。
ステップ4:経済評価を実施(増収分と追加コストを比較)。
ステップ5:全群導入・部分導入(泌乳初期のみ)・撤退のいずれかを決定。
注意点(よくある落とし穴)
- 短期間の増産をもって「成功」と判断しない。飼料費・乳価変動・SCCの長期動向を必ず確認する。
- 搾乳間隔が極端に短く(6時間未満)なると乳房負担が増大するため、スケジュール設計に注意。
- ロボット導入は操作習熟と保守体制が鍵。機器トラブル時の代替プランを準備する。
チェック用テンプレート
以下をコピペしてExcel等に貼り、試算に使ってください。
【入力】
- 現状の305日乳量(kg/頭): __________
- 予想増加率(%、例:10): __________
- 乳価(円/kg): __________
- 追加濃厚飼料コスト(円/頭/日): __________
- 追加労働コスト(円/日): __________
【計算】
増収(円/日/頭) = 現状日量 × (増加率/100) × 乳価
増コスト(円/日/頭) = 追加濃厚飼料コスト + (追加労働コスト ÷ 頭数対象)
損益(円/日/頭) = 増収 - 増コスト
まとめ
- 産乳量:3回搾乳は一般に2回比で平均5〜15%増の報告が多く、305日乳量で1.15〜1.2倍になる事例もある。
- 乳成分:乳脂肪率は低下傾向だが、総脂肪量は増えるため乳価構成により収益影響が変わる。
- コストと労働:濃厚飼料は増加(目安:濃厚飼料で約1.3倍)し、手動での3回は労働負担が大きい。ロボット導入が有効な場合が多い。
- 牛の健康:適切な間隔管理でSCC低下や乳腺炎抑制の報告もあるが、間隔短すぎると乳頭損傷等のリスクあり。
- 結論(経営判断):大規模・高泌乳群・ロボット導入なら3回を検討。労働力・乳価・初期投資を踏まえた損益試算を必須とする。
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