飼料高騰や気候変動が課題の今、オーチャードグラスは高糖分・再生力に優れた牧草です。品種選びから刈取り時期、サイレージまで、現場で役立つ実践的な情報を草地・飼料生産学研究室に所属していた筆者がまとめました。

現場で役立つオーチャードグラス管理法を解説
オーチャードグラスとは?酪農で使われる理由
オーチャードグラス(学名:Dactylis glomerata、和名:カモガヤ)は多年生稲科科牧草で、北海道をはじめ全国の酪農で基幹草種として使われます。チモシーに次いで生産される地域も多く、高温や乾燥への耐性、再生力の良さから採草・放牧のいずれにも向く点が特長です。太い葉と旺盛な再生で多回刈りが可能なため、年間を通した粗飼料生産に貢献します。

多年生で高温・乾燥に強く再生力抜群

酪農へのメリット・デメリット(現場目線)
- メリット:高糖(WSC)含量の品種があり、サイレージの発酵品質が良好。高温・乾燥に強く、チモシーが弱る年にも安定生産しやすい。再生力が旺盛で多回刈りが可能。
- デメリット:刈り遅れで嗜好性が低下するため、収穫タイミング管理が重要。越冬性や病害抵抗性は品種差がある(品種選定が鍵)。
- 活用法:早刈り1番草は乳牛の消化性が高く、2番草以降は混飼料や乾草・サイレージに加工して乳生産を支える。

高温・乾燥にも強くチモシーが弱る年でも安定生産
主要品種と特性(酪農で使いやすい品種)
近年、糖含量(WSC)やTDN収量を高めた品種が登場し、飼料自給率向上に役立っています。代表的な品種を簡潔に紹介します。
品種 | 主な特性 | 向く地域・用途 |
---|---|---|
えさじまん | 高WSC・TDN収量が多く越冬性・耐病性に優れる(中生晩)。サイレージ品質が良好。 | 北海道〜北東北、採草・放牧兼用。 |
北海35号 | 高糖含量で飼料品質優れる。寒地酪農向けのラインナップの一つ。 | 寒冷地の酪農。 |
ハルジマン/バッカス等 | 従来品種。収量性や耐病性に差があり、用途に合わせて選ぶ。 | 全国(品種による) |
(出典:農研機構、育種報告・種苗メーカーの製品情報)

採草・放牧兼用で現場の柔軟な運用が可能
栽培〜収穫の実務ポイント(現場で守ること)
播種・管理
播種は地域別に適期があります(北海道では春と晩夏〜初秋の2期が一般的)。播種量は地域や用途で異なりますが、例として2.0〜4.0kg/10a程度が目安。痩せ地でも生育しやすいが、窒素管理で収量を増やせます。
刈取りタイミング
乳牛用に使う場合、出穂前〜出穂始めの早刈りを基準にすると嗜好性と消化性が高くなります。年間で3回程度の刈取りを目安に、気象や草丈を見て判断してください。刈り遅れは嗜好性低下に直結します。
サイレージ化のコツ
- 刈取り直後に速やかに乾燥や切断処理を行い、発酵温度を抑える。
- 高WSC品種は自然発酵が安定しやすく、保存性が向上する。
- 混合比でアルファルファやクローバーと組み合わせると栄養バランスが良くなる。
これらの管理は品種ごとの特性(越冬性・病害抵抗性)に合わせて最適化する必要があります。

出穂前〜出穂始めの早刈りで嗜好性・消化性を確保
オーチャードグラス導入のチェックリスト
- 目的(採草専用/採草放牧兼用)を確定する。
- 土壌排水性と施肥計画を確認する(排水不良地でも利用可能な場合あり)。
- 品種選定:越冬性・病害抵抗性・糖含量(WSC)を重視。
- 収穫機械・サイレージ設備の準備。
- 試験的に少面積で育て、乳牛の反応(嗜好性・乳量)をチェック。

土壌排水性と施肥計画を事前に確認
よくある質問(Q&A)
Q. チモシーと混ぜて播くメリットは?
A. 収穫時期の分散や、双方の特性を補完できる点です。夏の高温でチモシーが弱る場合、オーチャードが安定収量を支えます。
Q. オーチャードで乳量は増える?
A. 高WSC・高TDNの品種を早刈りで与えれば、消化性が向上し乳生産を支える効果が期待できます(ただし給与設計や濃厚飼料量とのバランスが重要)。
実例紹介(北海道の現場から)
北海道の酪農地帯では、オーチャードグラスをチモシーと混播し、1番草を早刈りしてサイレージ化、2番草以降を乾草や追加サイレージにする運用が増えています。高糖含量品種の導入で保存性や牛の摂取量が改善したという報告が複数あります。

1番草は早刈りしてサイレージ化
まとめ
- オーチャードグラスは多年生イネ科牧草で、再生力・高温耐性・高糖分(WSC)が特長。サイレージ品質が良く酪農向き。
- 代表品種(例:えさじまん、北海35号)は高WSCや耐病性を強化しており、寒冷地の酪農に適している。
- 播種は地域に応じて春と晩夏に実施。播種量・施肥・排水管理を守りつつ、年間3回程度の刈取りを目安にする。
- 乳牛飼料に使う場合は「出穂前〜出穂始め」の早刈りが肝心。刈り遅れは嗜好性低下と乳量低下につながる。
- サイレージ化では刈取り後の処理スピードと混合比(アルファルファ等)を工夫し、高WSC品種を活かすと保存性が改善する。
- 導入前は目的(採草/放牧兼用)、土壌条件、設備、試験区での牛の反応確認を行い、段階的に面積拡大するのがリスク低減につながる。
オーチャードグラスは、高糖分で再生力の強い多年生牧草として、酪農現場での乳牛飼料に最適です。牧草栽培では、播種時期や施肥・排水管理を適切に行い、「出穂前〜出穂始め」の早刈りを意識することがポイントです。また、サイレージ化では刈取り後の処理スピードや混合比を工夫することで、保存性の高い高糖分牧草サイレージを作ることができます。導入時は試験区で牛の反応を確認し、目的や土壌条件に応じて段階的に面積を拡大することで、リスクを抑えつつ安定した乳牛飼料の供給が可能です。オーチャードグラスを上手に活用して、酪農経営の安定と高品質乳の生産につなげましょう。

オーチャードグラスは多年生で再生力・高温耐性・高WSCが特長
参考・出典:農研機構(品種解説・栽培マニュアル等)、雪印種苗(品種情報)、地域研究報告。主要な品種データや栽培指針は各機関の公表資料を参照しています
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