ソフトクリームの「ふわっ」とした食感は、配合や温度だけでなく〈空気=オーバーラン〉の量で大きく変わります。本記事では、オーバーランの基本定義と現場で測る具体的な計算方法、製品ごとの最適値、フリーザーや配合が与える影響、そして実務で使える調整・トラブルシュートまで、酪農現場の視点で丁寧に解説します。すぐ試せる測定手順と改善案を掲載しているので、品質とコストを両立させたい店舗運営者や自家製ソフトクリームづくりにも役立ちます。

ソフトクリームの『ふわっ』はオーバーラン=空気量で決まる!
1. オーバーランの定義となぜ重要か
オーバーラン(overrun)は、ミックス(液体原料)に混ぜ込まれた空気によって体積が増えた割合を指します。数値は%で表され、味・口当たり・見た目・原価(体積当たりの原材料コスト)に直接関わります。
なぜ重要なのか?
- 空気があることで食感が柔らかく、口当たりが良くなる。
- オーバーランが低いと「濃厚で重い」食感、逆に高いと「軽くて薄い」味になる。
- 原価管理(同じミックスでより多くの製品を取れる)に大きく影響する。
代表的なオーバーランの目安
製品ごとの一般的な範囲(目安):
製品 | オーバーラン(目安) | 特徴 |
---|---|---|
ジェラート | 20〜40% | 密度高め、濃厚 |
ソフトクリーム(ソフトサーブ) | 30〜80%(目安40%前後が標準) | ふわっとしつつコクを残すバランスが目標 |
ハードアイス(一般アイスクリーム) | 60〜100%+ | 軽くてボリューム感あり |

オーバーランはミックスに混ぜた空気で体積が増えた割合(%)

2. オーバーランの計算方法(実測で確認する)
基本式は次の通りです。
オーバーラン(%) = (ミックスの重量 - 同体積の完成品の重量) ÷ 同体積の完成品の重量 × 100
実測ステップ(現場で簡単にできる方法)
- 比較用の容器を用意し(例:同じカップ1個分の体積)、容器の重量を計測する。
- 容器にミックス(液体)を満杯に入れ、総重量を測る。容器重量を引いたものがミックス純重量。
- 同じ容器に出来上がったソフトクリーム(充填した完成品)を満杯にし、総重量を測る。容器重量を引いたものが完成品純重量。
- 上の式に代入して%を出す。
例:簡単な数値例
以下は測定例です。
- 容器の重さ:1.0 oz
- 容器+ミックス(満杯):19.0 oz → ミックス純重 = 18.0 oz
- 容器+完成品(満杯):13.0 oz → 完成品純重 = 12.0 oz
計算:
(18.0 - 12.0) ÷ 12.0 × 100 = 50%
この例ではオーバーランは50%です(ミックス1Lが1.5Lのソフトクリームになった状態に相当)。
実務Tips:温度や充填時の高さを揃える、同じ容器を使う、素早く測ることで誤差を小さくできます。測定は複数回行って平均を取ると信頼性が上がります。

オーバーラン(%) = (ミックス重量 − 完成品重量) ÷ 完成品重量 × 100
3. ソフトクリームの最適オーバーランと設計指針
現場で狙うべき標準レンジは 約40%前後 が目安です。これは「ふわっと感」と「コク(味の濃さ)」のバランスが良く、顧客受けも良い数値帯です。
用途別ガイド
オーバーラン値 | 食感・特徴 | おすすめ用途 |
---|---|---|
20〜40% | 濃厚で密度が高い。食べ応えあり。 | ジェラート風、濃厚系メニュー |
40〜60% | バランス型。クリーミーで口当たり良好。 | 標準ソフトクリーム、主力商品 |
60〜100% | 軽くて体積が出る。味は薄く感じることも。 | 体積重視(コスト削減)やイベント向け |

標準ソフトクリームのオーバーランは約40%前後が目安

品質とコストのトレードオフ
高オーバーランは原価低減(同じミックスでより多くの製品)を実現しますが、過度に高くすると「薄い」「物足りない」と感じられるリスクがあります。逆に低オーバーランは濃厚さを出せますが原材料コストが上がります。

オーバーランは食感と原価のバランス調整がカギ
4. オーバーランに影響する要素(調整ポイント)
機械(フリーザー)の種類と設定
フリーザーによって空気混入量のコントロール性が異なります。
- 重力式(old-type):比較的低オーバーラン(25〜35%)になりやすい。メンテが簡単だが、体積は出にくい。
- 加圧式 / 高性能フリーザー(例: 一流ブランドのソフトサーブ機):高いオーバーラン(65%以上)を出しやすい。微調整機能があり、安定して体積を作れる。
ミックスの配合と物性
乳脂肪分、固形分(SNF: non-fat solids)、空気保持性(乳化剤・安定剤の有無)で泡持ちが変わります。乳化剤や安定剤を使うと高オーバーラン時にもクリーミーさを保てますが、配合設計は慎重に。
温度とポンプ・充填工程
供給ミックスの温度、フリーザー入口の温度、充填温度はオーバーランに直結します。温度が高すぎると泡が大きく崩れ、低すぎると空気が入りにくいことがあります。
運転・メンテナンス
シーリング不良や損傷したベアリングは空気混入のムラを生みます。定期的な清掃とメンテナンスは安定したオーバーランを維持する基礎です。

脂肪分・固形分・乳化剤や安定剤の有無で泡持ちやクリーミーさが変化
5. 現場でできる調整とトラブルシューティング
オーバーランが低い(固め・重い)場合の対処
- フリーザーのエアインジェクション(空気注入)設定を増やす。
- ミックス温度を若干上げる(但し殺菌後の品質管理は厳守)。
- 乳化剤や安定剤を見直す(配合バランスを確認)。
- 機械内部の目詰まりや摩耗をチェック。
オーバーランが高すぎる(ふわふわで味が薄い)場合の対処
- 空気注入量を下げる設定に変更。
- 乳脂肪・固形分を見直して味の厚みを調整。
- フリーザー内部の損傷(バルブやシール)を点検。
品質を保ちながら利益を上げるコツ
高オーバーランで単価を下げつつ利益を増やす場合、乳化剤や安定剤を適切に使って「軽いがコクがある」口当たりを維持することが肝心です。テスト販売で顧客の満足度を確認してから大きな切替を行いましょう。

乳化剤や安定剤、配合バランスの見直しも効果的
6. ビジネス視点:原価とメニュー設計
同じ1ガロン(約3.78L)のミックスで作れるソフトクリームの量はオーバーランによって大きく変わります。
簡単な原価例(概算)
※実際の配合・価格によって変わりますが考え方の例です。
- ミックス1ガロンで生産できる体積が1.4ガロン(約40%オーバーラン)の場合:生産数は増えるが、1杯あたりの原料分は抑えられる。
- 同じミックスでオーバーランを60%にすると体積はさらに増え、利益率が改善。しかし顧客満足度が下がるリスクもある。
提案:主要メニューは40%前後を基本にし、イベント・大量提供向けに高オーバーラン(60%前後)を用意するなど、用途に合わせてオーバーランを使い分けると良いです。

オーバーランでソフトクリームの生産量と原価が大きく変わる
7. ジェラートとの違い(オーバーランから見る比較)
ジェラートは一般にオーバーランが少なく(20〜40%)、密度が高く「重みと濃厚さ」が特徴です。対してソフトクリームは柔らかさを重視するため高めのオーバーランを取る傾向にあります。
商品設計時は「どの顧客体験を提供したいか」を軸にオーバーランを設定しましょう。

ジェラートはオーバーラン20〜40%で密度高め、濃厚な食感が特徴

FAQ(よくある質問)
Q1: 家庭でオーバーランを測れますか?
A: はい。小さなカップと正確な秤を使えば簡単に測定できます。温度や充填高さを揃えると精度が上がります。
Q2: オーバーランを上げると必ず原価が下がりますか?
A: 体積当たりの原材料コストは下がりますが、乳化剤の使用、機械メンテナンス、顧客満足度低下による売上影響なども考慮する必要があります。
Q3: 40%より高いと品質が悪くなる?
A: 一概に悪くなるわけではありません。適切な配合と安定剤・乳化剤を使えば高オーバーランでも満足度の高い食感は作れます。ただしテストが不可欠です。
この記事のまとめ
- オーバーラン=ミックスに含まれる空気の割合。ソフトクリームの食感・味・原価に直結する重要指標。
- 計算式:
(ミックス重量 − 完成品同体積の重量) ÷ 完成品同体積の重量 × 100
。同じ容器で複数回測り平均を取ると信頼性UP。 - 目安:ソフトクリームは概ね30〜80%(標準は約40%)/ジェラートは20〜40%と密度高め。用途に応じて設定を変える。
- 影響要因:フリーザー種類(重力式 vs 加圧式)、配合(乳脂肪・固形分)、乳化剤・安定剤、温度管理、機械メンテ。
- 実務Tips:低すぎる場合は空気注入や温度・乳化剤を見直す。高すぎる場合は注入量低下や配合変更で味の厚みを回復。テスト販売で顧客反応を確認しつつ運用を最適化する。

オーバーラン=ミックスに含まれる空気の割合。食感・味・原価に直結!
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