2025年1月~7月の酪農業における倒産件数は、前年同期比233.3%増の計10件で、2006年以降の最多記録となりました。負債総額は76億400万円(同3469.9%増)にのぼり、特に7月だけで10件が集中。飼料価格と人件費の高騰が収益を圧迫する中、政府は4月11日に「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」を公表し、設備投資補助や人材育成などの支援策を打ち出しています。本記事では、背景と要因を整理し、今後の展望を専門的視点で解説します。

2025年前半だけで酪農業の倒産が前年比2倍以上!
1. 突然の倒産ラッシュ――1月〜6月はゼロ、7月に一気に10件
- 1月〜6月までゼロ件:2025年前半は、乳価引き上げやICT投資の効果で法的整理件数がゼロを達成。
- 7月に10件集中:前年までは散発的だった倒産が、一気に顕在化。規模は小~中規模(従業員5~50人)が中心で、うち4件は従業員20~50人規模の牧場です。
1月~6月は乳価引き上げやICT投資、省エネ施策の効果で法的整理件数がゼロを達成しています。どのような要因で倒産ゼロを実現できたのか詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
2. 倒産急増の主因と構成比
- 他社倒産に伴う閉鎖(60%)
連鎖的な資金繰り悪化で、取引先倒産のあおりを受ける事例が最多。 - 販売不振(20%)
乳価上昇(2024年4月~9月平均で2020年比1.2倍)がコスト増に追いつかず、販売量減少。 - 運転資金不足(10%)
大型設備投資の借入返済が経営を圧迫。 - 過去の債務負担(10%)
旧借入金やリース債務の増大が引き金。
2025年7月の倒産ラッシュでは、大型設備投資や経営ガバナンスの課題が顕在化しました。特に岡山県倉敷市のIoT酪農ベンチャー「ファーマーズホールディングス」は、グループ12社で民事再生法を申請し約90億円の負債を抱えた事例として注目されました。
3. 飼料価格・人件費高騰の深刻度
- 乾草価格:2020~2022年で1.6倍に上昇
- 配合飼料価格:同期間で1.4倍に
- 人件費:賃金上昇&労働力不足が重なり、平均給与コストが15%増加
ウクライナ情勢や円安の影響で輸入飼料コストが高止まりし、収益改善が追いつかない状況が続いています。

飼料価格が2年で1.5倍以上…酪農経営の重圧を改めて実感!

4. 地域別分布――東北・中国・九州で顕著な増加
地域 | 件数 | 前年同期比 |
---|---|---|
東北 | 3 | 0→3(増加) |
中国 | 3 | 1→3(増加) |
九州 | 3 | 2→3(増加) |
中部 | 1 | 0→1(増加) |
北海道 | 0 | 0→0(横ばい) |
酪農業が盛んな地域での倒産急増は、業界全体の供給安定性にも影響を与えかねません。

地域別の倒産動向を踏まえた政策対応が求められる
5. 長期的課題と政府支援策
課題
- 高齢化・後継者不足:40%超の酪農家が赤字経営、若手参入が進まない
- 設備投資負担:省力化・自動化への投資額が大きく、単独では回収困難
- 気候変動リスク:猛暑など暑熱ストレスが乳量・乳質に悪影響
支援策(2025年4月11日発表)
- 設備投資補助:搾乳ロボットやICT機器導入に対する補助金
- 人材育成:新規就農者向け研修やリカレント教育の充実
- 飼料安定供給:国産粗飼料の生産支援、緊急時の輸入支援体制
- 環境保全支援:堆肥循環利用や排せつ物管理の制度化

酪農の高齢化と後継者不足が深刻…若手参入促進が急務ですね!
6. 今後の打開策
- 自給飼料シフトの加速
自家栽培トウモロコシ・アルファルファで輸入依存を軽減し、コストリスクを低減。 - 共同投資・共同利用モデルの構築
複数牧場で搾乳施設やロボットを共有し、初期投資を分散。 - 若手参入促進プログラム
農業高校・大学と連携したインターンシップや研修生受け入れ枠の拡充。 - 高付加価値商品の開発
オーガニック乳製品や機能性強化乳へのシフトで、付加価値を創出。 - 気候対応農法の導入
遮光ネットや冷却ミスト、牛舎断熱強化で猛暑対策を標準化。

農業高校・大学と連携し若手参入促進のインターンシップ拡充
まとめ
- 件数推移:1~6月はゼロ、7月に10件集中し、前年同期比233.3%増
- 負債総額:76億400万円(前年同期比3469.9%増)
- 主因:飼料価格1.6倍、配合飼料1.4倍の高騰+人件費上昇
- 地域別動向:東北・中国・九州で各3件、中部1件
- 規模・形態:従業員20~50人が4件、民事再生70%、破産30%
- 政府支援:設備投資補助・人材育成・飼料安定供給など基本方針を公表
- 今後の課題:自給飼料シフト、高齢化対策、共同投資モデル、気候変動対応
今後の課題:自給飼料シフト、高齢化対策、共同投資モデル、気候変動対応
2025年上半期の酪農業は、飼料価格高騰や人件費増で経営環境が厳しさを増す中、政府支援と現場の経営改善努力で1~6月に倒産ゼロを達成。しかし7月の倒産ラッシュは、コストリスク管理・資金調達体制・後継者育成の重大課題を露呈しました。今後は、業界全体で「リスク分散モデル」と「付加価値強化」を両輪に、持続的な成長ルートを構築する必要があります。

2025年前半は倒産ゼロの明るい兆しも、7月に突然10件の倒産ラッシュが発生
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