受動免疫移行不全(FPT)は、新生子牛が初乳から十分な免疫を得られず、下痢や肺炎などの疾病リスクが高まる状態です。FPTは死亡率の上昇や治療費の増加を招き、酪農経営の収益性を低下させます。本記事では、FPTの定義・原因・症状・予防策を酪農現場の視点で詳しく解説します。

FPTは新生子牛が初乳で免疫を十分に得られない状態
1. FPTとは:定義と酪農経営への影響
受動免疫移行不全(Failure of Passive Transfer:FPT)は、新生子牛が母親の初乳(コロストラム)から十分な免疫グロブリン(主にIgG)を吸収できない状態を指します。一般的な判定基準として、血清IgGが約10g/L(=10mg/mL)未満、あるいは血清総タンパク(STP)が5.2g/dL未満の個体はFPTのリスクが高いとされています。FPTになると下痢や肺炎の発生率が上昇し、死亡率や治療コストの増加を招くため、酪農経営にとって非常に重要な課題です。

FPTは新生子牛が初乳で十分なIgGを吸収できない状態

2. 主な原因:初乳の質と量、タイミング、母牛・子牛・環境要因
FPT発生には複数の要因が関与します。現場でよく見られるポイントは次の通りです:
- 初乳の質(IgG濃度)の不足:母牛の栄養状態や乾乳期の管理、ワクチン接種状況が影響します。
- 給与量・タイミングの不適切:生後できるだけ早く(理想は2〜6時間以内)高品質の初乳を与えることが重要です。
- 子牛側の要因:難産や低酸素で腸管吸収能が落ちる場合があります。
- 環境・衛生:汚染された哺乳器や牛舎が感染リスクを上げ、結果的にFPTの影響が顕在化しやすくなります。

給与量・タイミングは生後2〜6時間以内が理想
3. 診断方法と現場ですぐできるチェック
現場で使える簡易チェックは主に次の方法です。
- 血清総タンパク(STP)測定:屈折計(リフラクトメーター)で測定。目安は 5.2 g/dL を下回ると要注意。
- Brix値(屈折計):迅速に血清や初乳の指標として利用されます。血清Brix値が低ければFPTの可能性。
- 専門検査(IgG測定):ラボでの定量検査(ELISAやRID)で正確なIgGを把握できます。経営判断に活かすなら定期的なサンプリングが有効です。
現場のワンポイント:生後24〜48時間以内にSTPやBrixでスクリーニングすると、FPTの早期発見につながります。早めの介入は治療費と死亡リスクを下げます。

Brix値で血清や初乳の免疫指標を迅速チェック
4. 現場で即実行できる予防・管理手順(チェックリスト付き)
ここでは日々のルーチンに組み込みやすい具体的手順を示します。
初乳管理の基本(実務手順)
- 分娩確認:分娩後すぐに子牛の状態をチェック(呼吸・体温・反射など)。
- 初乳給与のタイミング:可能な限り 生後2時間以内に初乳を第1回給与。最低でも生後6時間以内を目標に。
- 給与量の目安:生後初期に体重の約10%を1回目に、24時間以内に合計で約20%を目指す(個体差に応じて調整)。
- 初乳の加熱処理:感染リスクが気になる場合は低温長時間(例:LTLT)での加熱処理で衛生性を高める。現場の確認と機器に従って実施。
- 器具の衛生:哺乳瓶・ホース・バケツは毎回洗浄・消毒。
- 記録とモニタリング:初乳の供給記録、STP/Brixの測定値を日々記録してトレンドで管理。
FPT予防チェックリスト(現場用)
- 分娩後すぐに子牛評価:呼吸・反射 OK?
- 初乳は生後2〜6時間以内に1回目を給与しているか
- 初乳の供給量:体重の10%(1回目)→合計20%/24hを確保
- 器具・牛舎の衛生管理が徹底されているか
- STP/Brixを用いた定期スクリーニングを行っているか

初乳は生後2時間以内に第1回を給与、最低でも6時間以内を目標
5. よくある質問(FAQ)と実務的なヒント
Q. 初乳が足りないときはどうする?
A. ドナー初乳を確保できれば最良。無ければ市販の補完製品(コロストラム代替)を活用しつつ、早期に獣医と相談してください。量とタイミングが最重要です。
Q. 初乳は冷凍保存しても効果は落ちますか?
A. 適切に冷凍保存(-18℃以下)した初乳は長期保存が可能です。解凍は低温でゆっくり行い、再凍結は避けてください。
実務ヒント:母牛側の管理
乾乳期の栄養管理、ワクチン接種、乳房の健康維持が高品質な初乳を生む土台です。分娩が近い母牛は個別管理でストレス軽減を図りましょう。
6. まとめと次のアクション
FPTは「予防できる問題」です。初乳の質・量・タイミングと器具の衛生、そして定期的なモニタリング(STP・Brix・IgG)があれば、発生率は確実に下がります。今日から取り入れられる実務は多く、まずは下記の簡単なステップから始めてください:
- 分娩管理チェックリストを牧場で共有する
- 初乳の供給ルール(時間・量)を明文化する
- STP/Brixで週次のスクリーニングを開始する

FPTは予防可能!初乳の質・量・タイミングがカギ
※本サイトで紹介している商品・サービス等の外部リンクには、アフィリエイト広告が含まれる場合があります。
この記事が役に立ったら、現場の仲間にもシェアしてください。ご質問や現場の状況を教えていただければ、具体的な対応案を一緒に考えます。
コメント