アボット、未熟児用粉ミルク訴訟を6億7000万ドルで和解|シミラックNEC訴訟の経緯と残る1700件

アボットの未熟児用粉ミルクNEC訴訟、6億7000万ドルの和解と残る約1700件の訴訟を解説するアイキャッチ画像 世界の酪農
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2026年8月20日、米アボット・ラボラトリーズは、未熟児向け特殊粉ミルクをめぐる壊死性腸炎(NEC)訴訟の一部について、約6億7000万ドルで和解すると発表しました。今回の合意には、2024年に4億9500万ドルの賠償評決が出たGill事件と、約2,000人分の追加請求が含まれます。一方、アボットは製品の安全性を維持する立場を示し、今回の和解は責任を認めるものではないとしています。この記事では、シミラックを含む未熟児用粉ミルクをめぐるNEC訴訟の経緯、4億9500万ドル判決の背景、NECの医学的な論点、そして和解後も残る訴訟について整理します。

最終更新:2026年8月23日


アボットの6億7000万ドル和解とは?

アボット・ラボラトリーズは2026年8月20日、同社の未熟児向け特殊粉ミルクなどをめぐる訴訟の一部について、約6億7000万ドルで和解すると発表しました。

今回の和解には、いわゆるGill事件と、同じく未熟児用粉ミルクと壊死性腸炎(NEC)の関連を主張する約2,000人分の請求が含まれます。

今回の和解のポイント

  • 和解額:約6億7000万ドル
  • 発表日:2026年8月20日
  • 対象:Gill事件+約2,000人分の追加請求
  • Abbottの立場:責任を認めるものではない
  • 和解後:約1,700件の訴訟が残る
  • 残る請求:約12,700人分とされるが、重複等を含む

ここで注意したいのは、今回の6億7000万ドルが「アボットの未熟児用粉ミルク訴訟をすべて終わらせるための和解金」ではないという点です。

アボットによると、和解後も連邦裁判所や州裁判所で約1,700件の訴訟が残っています。また、約12,700人分という数字には、同じ乳児が複数の訴訟に含まれているケースや、アボットと競合メーカーの双方を名指ししているケース、NECと診断されていないケースなども含まれるとされています。

したがって、「1,700件=1,700人」「12,700件=12,700人の確定した被害者」と単純に理解するのは適切ではありません。

シミラックNEC訴訟の経緯を時系列で整理

2022年4月

米国の複数地区に存在する関連訴訟について、米国司法評議会(JPML)が連邦訴訟をイリノイ州北部地区の連邦地方裁判所に集約し、複数地区訴訟(MDL)として手続きを進める枠組みが整えられました。

2024年7月

ミズーリ州セントルイスで行われたGill事件の陪審裁判で、原告側に4億9500万ドルの賠償評決が下されました。

2024年12月

アボットはGill判決を不服としてミズーリ州控訴裁判所に控訴しました。

2025年〜2026年

一方、連邦MDLでは、複数のbellwether(先行審理)事件でアボット側に有利な判断が出ています。アボットの2026年6月30日付SEC提出資料によると、最初の3件の連邦MDL bellwether事件では、いずれもアボットがsummary judgmentで勝訴しています。

2026年5月

ミズーリ州控訴裁判所はGill事件の判決を支持しました。アボットはその後、ミズーリ州最高裁による審査を求めていました。

2026年8月20日

アボットはGill事件と約2,000人分の請求を合わせ、約6億7000万ドルで解決することで合意したと発表しました。

4億9500万ドルのGill判決とは?

今回の和解を理解するうえで重要なのが、Gill事件です。

2024年7月、ミズーリ州セントルイスの陪審は、イリノイ州の母親が原告となったGill事件で、未熟児向け特殊粉ミルクが子どものNEC発症に関与したとの主張を認め、総額4億9500万ドルの賠償評決を出しました。

アボットの2026年6月30日付10-Qによると、この判決は2026年5月にミズーリ州控訴裁判所でも支持され、アボットはミズーリ州最高裁による審査を求めていました。

4億9500万ドル

Gill事件で2024年に出された陪審評決

その後、アボットは今回の和解により、Gill事件について約6億ドルに達していたとする判決額と利息などを単独で支払う代わりに、他の請求と合わせて解決する方針を選択しました。

重要なのは、裁判で原告側の主張が認められた事件がある一方、他の裁判ではアボット側に有利な判断も出ていることです。

つまり、2026年8月時点では「粉ミルクがNECを引き起こすことが裁判で一律に確定した」という状況ではありません。

NEC(壊死性腸炎)とは?

NEC(Necrotizing Enterocolitis/壊死性腸炎)は、主に早産児や低出生体重児に発症する重篤な腸疾患です。

腸管の炎症が進行し、重症になると腸組織の壊死や穿孔などを起こすことがあります。そのため、新生児集中治療室(NICU)で管理される早産児にとって、重要な疾患の一つです。

NECの原因は一つだけではありません。早産そのもの、未成熟な腸管、未成熟な免疫系、腸内細菌叢など、複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。

FDA・CDC・NIHが2024年に公表した共同見解では、早産児用粉ミルクがNECを引き起こすとの決定的な証拠はない一方、人乳にはNECに対する保護効果を示す強いエビデンスがあるとされています。

医学的に重要なポイント

「母乳がNECリスクを下げる可能性がある」ということと、「粉ミルクそのものがNECを引き起こす」ということは同じ意味ではありません。両者を区別して理解する必要があります。

未熟児用粉ミルクとNECの関係は?科学的な論点を整理

この訴訟で大きな争点となっているのが、牛乳由来成分を含む未熟児用粉ミルクとNECの因果関係です。

原告側は、未熟児に牛乳ベースの粉ミルクを使用することでNECのリスクが高まることや、メーカーが適切な警告を行わなかったことなどを主張しています。

一方、アボット側は、早産児用粉ミルクがNECの原因であることを示す信頼できる科学的証拠はないと主張しています。また、早産児用粉ミルクは、母乳やドナーミルクだけでは必要な栄養を確保できない場合に重要な選択肢になると説明しています。

FDA・CDC・NIHの2024年共同見解

米国食品医薬品局(FDA)、疾病対策センター(CDC)、国立衛生研究所(NIH)は2024年10月、早産児とNECに関する共同声明を発表しました。

その中では、「早産児用粉ミルクがNECを引き起こすとの決定的な証拠はない」としつつ、人乳がNECに対して保護的に働くことを示す強い証拠があると説明しています。

また、早産そのものがNECの主要なリスク要因であるとし、NECの発症メカニズムや栄養管理については、なお研究上の課題が残っているとしています。

「母乳が推奨される」ことと「粉ミルクが危険」は別問題

早産児の栄養管理では、母親自身の母乳が優先されることが一般的です。しかし、母乳を十分に確保できない場合もあり、その場合にはドナーミルクや早産児用特殊粉ミルクなどが選択肢になります。

そのため、医学的には「母乳には保護効果がある」という知見と、「特殊粉ミルクそのものがNECを原因として発症させる」という因果関係を同一視しないことが重要です。

なぜシミラックのNEC訴訟がここまで大きくなったのか

今回の問題は、単独の裁判だけではありません。アボットの未熟児向け特殊粉ミルクをめぐって、米国各地で多数の訴訟が提起されています。

連邦裁判では、複数の類似事件をまとめて手続きを進めるMDL(Multidistrict Litigation)の枠組みが利用されています。

MDLでは、すべての事件を一つの裁判として処理するわけではありません。共通する争点を整理するために集約され、その中からbellwether事件と呼ばれる先行事例を審理し、今後の訴訟の参考となる判断を積み重ねていきます。

アボットのSEC資料によると、連邦MDLの最初の3件のbellwether事件ではアボット側がsummary judgmentで勝訴しています。一方、州裁判ではGill事件のように原告側が大きな賠償評決を得たケースもあります。

このように、裁判所や事件によって結果が分かれていることが、今回の訴訟を理解するうえで非常に重要なポイントです。

和解後も約1700件の訴訟が残る理由

今回の約6億7000万ドルの和解によって、アボットに対するすべてのNEC関連訴訟が終わったわけではありません。

アボットは2026年8月20日の発表で、和解後も連邦・州裁判所に約1,700件の訴訟が残ると説明しています。

これらの訴訟では、請求内容や製品の使用状況などがそれぞれ異なります。

  • アボットとMead Johnsonの両社を被告としているケース
  • どちらのメーカーの製品が使用されたか明確でないケース
  • 粉ミルクを使用する前にNECと診断されたケース
  • NECと診断されていないケース
  • 同一人物が複数の地域の訴訟に含まれているケース

そのため、残る「約12,700人分」という数字についても、すべてが確定した損害賠償請求として認定されているわけではありません。

ここは誤解に注意

「約1,700件の訴訟が残っている」ことと、「約1,700件すべてでNECとの因果関係が確認されている」ことは同義ではありません。請求段階の事件には、訴訟上の争点が未確定のものも含まれます。

6億7000万ドルの和解は「アボットが敗訴を認めた」という意味なのか?

結論からいうと、今回の和解だけをもって、アボットが未熟児用粉ミルクとNECの因果関係を認めたと判断することはできません。

アボットは公式発表で、今回の合意は紛争中の請求を妥協によって解決するものであり、責任を認めるものではないと明記しています。

また、同社は未熟児用粉ミルクの安全性について従来の立場を維持しています。

企業が大型訴訟で和解を選択する理由は、単純な勝敗だけではありません。控訴やさらなる審理にかかる時間、訴訟コスト、将来の不確実性、企業経営への影響などを総合的に考慮して、和解によってリスクを確定させる場合があります。

今回もアボットは、Gill事件について約6億ドルに達していた判決額と利息などを単独で支払うのではなく、約2,000人分の追加請求と合わせて約6億7000万ドルで解決する道を選びました。

今回の和解が医療現場や今後の訴訟に与える影響

1.アボットの訴訟リスクは一部軽減

約2,000人分の請求とGill事件をまとめて解決することで、アボットは今回対象となった訴訟について不確実性を一定程度減らすことができます。

2.残る訴訟の行方が重要になる

約1,700件の訴訟が残る以上、今回の和解だけで問題が終了したわけではありません。今後の裁判でどのような判断が出るのかが、アボットだけでなく、同じ市場に参入するメーカーにも影響する可能性があります。

3.未熟児用粉ミルクの供給問題にも注目

早産児用の特殊粉ミルクは、一般家庭向けの通常の乳児用ミルクとは異なり、NICUなどの医療現場で栄養管理に使用される製品です。

FDA・CDC・NIHの共同見解でも、母乳を優先しつつも、すべての乳児は医学的に可能な時点で適切な栄養源から栄養を受ける必要があるとされています。

そのため、訴訟によってメーカーが市場から撤退したり供給を大幅に減らしたりすることになれば、早産児の栄養管理に影響する可能性があります。一方で、これは将来の供給状況に関する議論であり、今回の和解によって実際に供給不足が発生したことを意味するものではありません。

「アボットの粉ミルクは危険」と言い切れない理由

今回の訴訟をめぐるニュースでは、「裁判で4億9500万ドルの判決が出た」という情報だけが切り取られることがあります。

しかし、裁判上の責任判断と医学的な因果関係の確立は同じものではありません。

2026年8月23日時点では、Gill事件など原告側に有利な判断が存在する一方、連邦MDLの複数のbellwether事件ではアボット側に有利な判断が出ています。また、米国のFDA・CDC・NIHは「早産児用粉ミルクがNECを引き起こすとの決定的な証拠はない」としています。

したがって、現在の情報を正確に表現するなら、「未熟児用粉ミルクとNECの因果関係をめぐって大規模な訴訟が続いており、裁判結果も分かれている」という説明が適切です。

日本の粉ミルクにも関係する問題なの?

今回の訴訟の中心は米国で販売・使用されている未熟児向けの特殊粉ミルクです。

これは、日本のドラッグストアやスーパーなどで一般的に販売されている通常の乳児用粉ミルクと同一視しないことが重要です。

今回問題となっている製品は、早産児や低出生体重児の特殊な栄養ニーズを満たすために設計された医療現場向けの製品です。

そのため、「アボットのNEC訴訟」を理由として、日本で販売されている一般的な粉ミルク全体が危険になったと考えるのは適切ではありません。

この記事で参照した主な情報源

※本記事は2026年8月23日時点で公表されている情報をもとに作成しています。訴訟は継続中であり、今後の裁判所判断や和解条件の変更などによって内容が更新される可能性があります。

まとめ|アボットの6億7000万ドル和解でNEC訴訟は終わったのか

2026年8月20日、アボットは未熟児向け特殊粉ミルクをめぐる訴訟の一部について、約6億7000万ドルで和解すると発表しました。

今回の和解には、2024年に4億9500万ドルの賠償評決が出たGill事件と、約2,000人分の追加請求が含まれます。

ただし、今回の和解はアボットが製品の安全性やNECとの因果関係を認めたことを意味するものではありません。同社は製品の安全性を維持する立場を示しています。

また、FDA・CDC・NIHは、早産児用粉ミルクがNECを引き起こすとの決定的な証拠はないとしています。一方で、人乳がNECリスクに対して保護的であることを示す強いエビデンスがあり、NECの発症には早産や腸管・免疫系の未成熟など、複数の要因が関係しています。

そして最も重要なのは、約6億7000万ドルの和解で訴訟全体が終了したわけではないことです。アボットの発表では、和解後も約1,700件の訴訟が残っており、約12,700人分の請求が含まれます。ただし、この数字には重複請求や、NEC診断前のケースなども含まれています。

今後は、残る訴訟でどのような判断が出されるのか、未熟児用粉ミルクとNECの因果関係について医学・科学的な研究がどのように進むのかが重要なポイントになります。

今回のニュースを「アボットが粉ミルクの危険性を認めた」と単純化するのではなく、大規模な訴訟の一部が和解によって解決された一方、医学的な因果関係と法的責任についてはなお争いが続いていると理解することが重要です。

記事について

本記事はニュース・公開資料を整理した情報提供を目的とするもので、医療上の診断や治療方針を示すものではありません。未熟児や新生児の栄養管理については、必ず担当する医療機関・新生児専門医等の判断を優先してください。

この記事を書いた人

神奈川県横浜市の非農家に生まれる。実家では犬を飼っており、犬部のある神奈川県立相原高校畜産科学科に進学。同級生に牛部に誘われ、畜産部牛プロジェクトに入部。牛と出会う。

大学は北海道の酪農学園大学に進学。サークルの乳牛研究会にて会長を務める。ゼミでは草地・飼料生産学研究室に所属。

今年で酪農歴10年!現在は関西の牧場にて乳肉兼業農場の農場長として働いています。

【保有免許・資格・検定】普通自動車免許・大型特殊免許・牽引免許・フォークリフト・建設系機械・家畜商・家畜人工授精師・日本農業技術検定2級・2級認定牛削蹄師

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