アリが牛乳をヨーグルトに変える仕組み|コペンハーゲン大が解明した発酵メカニズム

アリ由来の酸と微生物が牛乳をヨーグルト状に変える発酵メカニズムを解説する科学研究の図解 乳製品
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アリが牛乳をヨーグルトに変える」一見奇抜な伝承が、コペンハーゲン大学とデンマーク工科大学の共同研究によって科学的に再検証されました。本記事では、論文の主要結果を図表で整理し、アリ由来の酸と微生物(=ホロビオント)がどのように乳を酸性化・凝固させるのか、味わいの化学的背景、そして家庭での再現が危険とされる理由まで、専門的かつ読みやすく解説します。

研究の概要 — 何が明らかになったか

2025年10月にiScienceで発表された研究は、ブルガリアやトルコに伝わる“アリを使った乳の発酵法”を現代的に再現・解析し、アリとその付随微生物(=ホロビオント)が乳の酸性化と初期凝固を促すことを示しました。研究は伝統知と分子解析を組み合わせ、アリ由来の酸(例:ホルミ酸)と特定の乳酸菌・酢酸菌が協働して発酵を始める過程を示しています。

乳酸菌入りヨーグルトで腸内環境を整えるイメージ
乳酸菌で腸から健康づくり

伝統→研究:どのように再現されたか(高レベルの要約)

研究チームは民間に伝わる手法を参考にフィールド再現を行い、アリの体とその付随微生物が乳中で酸と酵素を供給することで発酵が開始されることを観察しました。再現実験の結果、乳は短時間で酸性化し、舌触りが滑らかで「軽い酸味とハーブのような風味」を示したと報告されています。論文では、アリ固有の微生物群に由来する乳酸菌(例としてFructilactobacillusに近縁の菌種)が検出されたことが示されています。

発酵の主要因子:酸・微生物・酵素の三位一体

研究が示す発酵開始の鍵は次の三つです。

要素役割(高レベル)
アリ由来の酸(ホルミ酸等)乳のpHを下げ、酸性環境を作ることで酸耐性のある発酵菌が有利になる
アリに付随する微生物群乳糖を分解し乳酸や酢酸を生成。種類が多いほど風味が複雑化する
アリ/菌由来の酵素たんぱく質分解や脂質の変化を促し、テクスチャや香りの基盤を作る

これらの因子が相互に作用することで「短時間の凝固」と「独特の風味」が現れると研究は結論づけています。

風味とテクスチャの科学的根拠

研究中に行われた官能評価および化学分析では、「軽い酸味」「ハーブ様の香り」「草食系脂肪のニュアンス」といった特徴が報告されています。これらは、乳酸・酢酸などの短鎖酸や、たんぱく質分解により生成される揮発性化合物の組み合わせによるものと考えられます。特に、多様な微生物群が存在することで、工業的に用いられる2株型スターターでは得られない風味層が形成される点が注目されました。

料理や食品開発への応用例

研究は、伝統技術が示す「多様な発酵文化」が現代の食品開発に応用できる可能性を示唆しています。実際にコペンハーゲンのミシュラン星付きレストランとの協働で、アリ由来の風味を取り入れたコースが試作・提供されたと報告されています。こうした取り組みは、プロの厨房で安全管理された条件下で行われるべきものであり、新規発酵スタート文化の探索や植物性製品の風味改良などに発展する余地があります。

重要:自宅での再現は避けてください(安全上の警告)

研究者自身も、アリに起因する寄生虫や食中毒リスクを懸念しており、一般消費者が家庭で同様の手法を試すことは強く推奨していません。安全な原料管理・微生物検査・適切な滅菌措置がない環境での再現は健康被害を招く可能性があります。伝統の文化的価値は尊重すべきですが、家庭で模倣することは避け、学術的・産業的な管理下での研究・開発を待つべきです。

補足:研究は伝統法の科学的意義を示すものであり、家庭向けのレシピや具体的な手順の提供を目的としたものではありません。

食品安全と生物多様性の観点

アリは地域によって保全状況が異なります。研究は採集や商業化に伴う生態学的影響に配慮する必要性を指摘しており、絶滅危惧種の採取は禁止されるべきである点も強調されています。また、食品用途に転用する際は微生物の特定・毒性評価・品質管理が必須です。産業化を視野に入れる場合、野外由来の微生物をそのまま製品化する方法はリスクが大きく、分離・同定した安全な微生物株を用いるアプローチが現実的です。

研究が示す食品科学上の示唆(まとめ)

・伝統発酵は多様な微生物資源の宝庫であり、新しいフレーバーや機能性素材の探索対象になる。
・アリのホロビオント(宿主+付随微生物)は発酵を“起動”させるための複合的作用を示すことが確認された。
・ただし、産業応用には厳格な安全性評価と持続可能性の配慮が必要。

コペンハーゲン大らの研究は、アリとその付随微生物が乳を短時間で酸性化し凝固させることを示しました。鍵はアリ由来のホルミ酸や多様な乳酸菌・酢酸菌、加えて酵素によるタンパク質分解であり、それらの相互作用が独特の風味とテクスチャを生み出します。ただし、寄生虫や汚染リスク、採集による生態影響などの安全上・倫理上の問題があり、家庭での模倣は避けるべきです。将来的には、アリ由来微生物を分離・安全評価して食品開発に活用する道が期待されます。

よくある質問(Q&A)

Q:家庭で真似しても大丈夫ですか?

A:いいえ。寄生虫や未知の病原菌によるリスクがあるため、家庭での再現は避けてください。研究者も同様の警告を出しています。

Q:この研究はどの論文ですか?

A:Making yogurt with the ant holobiont uncovers bacteria, acids, and enzymes for food fermentation(iScience, 2025)。DOI: 10.1016/j.isci.2025.113595。論文と関連プレスリリースで主要データが公開されています。

参考・出典:iScience(Sinotte et al., 2025)論文、Cell Press/EurekAlertのプレス、LiveScience、The Guardian、C&ENなどの報道を参考にまとめました。主要な科学的主張は論文に基づきます。

免責:本記事は研究の要旨・解説を目的としたものであり、安全性の観点から家庭での再現手順や実験プロトコルの提供は行っていません。健康に関する具体的な疑問は医師や公的機関にご相談ください。

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この記事を書いた人

神奈川県横浜市の非農家に生まれる。実家では犬を飼っており、犬部のある神奈川県立相原高校畜産科学科に進学。同級生に牛部に誘われ、畜産部牛プロジェクトに入部。牛と出会う。

大学は北海道の酪農学園大学に進学。サークルの乳牛研究会にて会長を務める。ゼミでは草地・飼料生産学研究室に所属。

今年で酪農歴10年!現在は関西の牧場にて乳肉兼業農場の農場長として働いています。

【保有免許・資格・検定】普通自動車免許・大型特殊免許・牽引免許・フォークリフト・建設系機械・家畜商・家畜人工授精師・日本農業技術検定2級・2級認定牛削蹄師

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