酪農経営で見落とされがちなリスクが、飼料に発生する「カビ(真菌)」です。カビやマイコトキシンは牛の免疫を低下させ、乳房炎の増加や乳量低下など重大な損失を招くことがあります。本記事では、原因の見分け方から診断、現場ですぐ実行できる飼料管理と搾乳衛生の対策まで、チェックリスト付きで実践的に解説します。
乳房炎の基礎 — なぜカビ(真菌)が問題なのか
乳房炎は乳腺に微生物が侵入・増殖して起きる炎症で、乳質低下や体細胞数(SCC)の上昇、泌乳量の減少を引き起こします。真菌(Aspergillus、Penicillium、Fusariumなど)や飼料中のマイコトキシンは、摂取を通じて牛の免疫を低下させ、結果的に細菌性乳房炎のリスクも高めます。実際、飼料に由来する真菌・マイコトキシンの存在は乳牛の生産性と健康に影響することが報告されています。
ポイント:カビ自体が乳房内に直接感染する場合と、飼料のカビ毒が免疫を下げて二次的に乳房炎が増える場合の両方があります。環境管理と飼料管理の両輪で対策が必要です。
発生の主な経路と現場で見られる症状
- 直接感染:汚染された搾乳器具・手指・敷料などから乳頭を介して侵入。
- 間接影響:カビ汚染飼料の摂取による免疫低下 → 細菌性乳房炎の増加。
臨床症状は腫脹、熱感、乳汁の凝集塊(粒状物)や変色が見られ、真菌性は進行が速いこともあります。体細胞数(SCC)は乳房炎の重要な指標で、研究や技術開発でもSCCやその種別(DSCC)が早期発見に役立つことが示されています。SCCは管理と診断の基礎データとして必ず記録しましょう。
乳房炎の診断と処置の考え方
診断は乳汁の培養検査とSCCのモニタリングが基本です。原因が真菌か細菌かで治療方針は変わるため、**原因菌の同定と薬剤感受性試験**は重要です。抗菌剤の乱用は薬剤耐性(AMR)を招くため、MAFFや獣医学のガイドラインに沿った適正な薬剤選択と使用を心がけてください。
(現場での目安)軽度:乳汁の一部変化・SCC軽度上昇 → 監視と局所処置。中等度〜重度:腫脹・高SCC → 速やかな採乳停止・隔離・獣医師による培養検査。
飼料管理でできる“今すぐ”対策(サイレージ・乾草中心)
カビ対策は飼料管理が第一です。以下は現場で即実践できる手順です。
- 収穫と発酵管理:サイレージは適正な水分管理と密封を行い、発酵温度をモニタリング。高温や白い綿状のカビが見られたら要注意。
- 保管:乾草はできるだけ乾燥した場所で、地面と直接接触させない。バッグ詰めやパイルは換気と防湿を意識。
- 検査と除去:異臭、変色、白い粉〜綿状物が見られる部位は取り除く。広範囲なら専門検査を依頼。
- 添加剤の活用:必要に応じてプロピオン酸等の防カビ剤や吸着剤を使用(使用方法はメーカー指示・専門家に確認)。

飼料由来のマイコトキシンは牛の代謝や免疫に長期的に影響するため、定期的な飼料試験(乾草・サイレージの検査)を検討してください。研究報告でも飼料中真菌とマイコトキシンの存在は乳牛の生産性に影響することが示されています。
牛舎・搾乳衛生でやるべきこと
- 搾乳器具は洗浄→乾燥→消毒の順で管理し、消毒方法と頻度を明確に記録。
- 搾乳前の乳頭清拭、手洗い・手袋着用の徹底。
- 牛床は湿気を溜めないこと。石灰散布や乾燥材の活用でカビ繁殖を抑制。
- 体細胞数(SCC)を月次で記録し、異常値の早期検知を運用化。
ヒント:SCCの「閾値(目安)」や検査頻度は牛群の状況により変えますが、定常的な記録が最も重要です。NAROや研究機関の指摘では、SCCを用いた個体管理が乳房炎防除に有効と報告されています。
迅速検出技術と今後の展望
最近では現場で原因菌を迅速に検出する技術が進んでいます。こうした技術の導入は、適切な薬剤選択とAMR抑制に貢献します。最新の技術動向をチェックし、導入可能なものは積極的に検討しましょう。
現場で使えるチェックリスト(印刷・配布用)
- 毎日のサイレージ表面チェック:変色・異臭・白カビの有無
- 乾草保管場所の換気確認(湿気がこもっていないか)
- 搾乳器具の洗浄・消毒記録を毎日チェック
- SCCの月次記録と、上昇個体の隔離フローを確認
Q&A(よくある質問)
Q. カビ性乳房炎は人に感染しますか?
A. 基本的にヒトの通常感染とは異なりますが、農場では適切な衛生管理でヒトと動物の感染リスクを低減してください。
Q. どの程度のSCCで危険?
A. 一般的な目安として30万/mLを超えると乳房炎の疑いが強まりますが、個体差・群差があるため経時管理が重要です。研究でもSCC/DSCCの併用による早期発見が有効と報告されています。
まとめ — 今すぐ始められる行動
- 飼料中のカビ(Penicillium, Aspergillus, Fusarium 等)とマイコトキシンは、免疫低下を通じて乳房炎リスクを高める。
- 診断は乳汁培養と体細胞数(SCC)モニタリングが基本。真菌性なら薬剤選定に慎重を要する。
- 最も効果的な対策は飼料管理(発酵・保管の適正化)、搾乳器具と牛舎の徹底消毒、定期検査。
- 現場で使えるチェックリスト(サイレージ外観・匂い・温度・SCC記録等)を導入し、早期発見と原因除去をルーティン化する。
カビ(真菌)による乳房炎は、飼料品質と環境衛生の両面からの予防が最短の解決策です。まずは今日、サイレージの「匂いと外観」をチェックし、搾乳器具の消毒手順を現場で再確認してください。小さな改善を積み重ねることが長期的な乳量維持とコスト削減につながります。
関連記事
酪農の乳房炎とは?原因菌種類別の予防&治療ポイントまとめ
※本サイトで紹介している商品・サービス等の外部リンクには、アフィリエイト広告が含まれる場合があります。
参考・出典:MAFF(乳房炎の治療と薬剤耐性に関する技術資料)、河合一洋(乳房炎の診断と治療の考え方)、NARO(体細胞数と感染の関係)、学術報告(飼料中真菌とマイコトキシンの影響)、企業プレス(乳房炎原因菌の迅速検出技術)。