乳牛の健康管理において、「蹄病」は経営に直結する重要な課題です。その中でも**趾皮膚炎(digital dermatitis, DD)**は、の主な原因のひとつで、乳量の低下や繁殖成績の悪化を引き起こします。大規模酪農場では70%以上の感染率が報告されることもあり、放置すれば慢性化して治療が難しくなる厄介な病気です。
この記事では、趾皮膚炎の原因・症状から、治療法、予防策など2級認定牛削蹄師である筆者が現場で使える実践的な対策を詳しく解説します。

趾皮膚炎は乳量低下の原因に!
1. 趾皮膚炎とは
趾皮膚炎は、Treponema属スピロヘータ細菌によって引き起こされる感染性疾患です。糞尿や泥で湿った環境で増殖し、主に後肢の踵(かかと)部分に潰瘍やイボ状の病変(hairy heel warts)を作ります。
慢性化すると牛は強い痛みを避けるため、つま先立ちで歩くようになり、乾物摂取量(DMI)や搾乳時の落ち着きにも悪影響を与えます。

採食量や乳量にも悪影響

2. 原因
趾皮膚炎は複数の細菌感染が関与しており、主因はTreponema属ですが、BorreliaやBacteroidesなども病変部から検出されます。
感染経路は以下の通りです。
- 糞尿や汚れた水との接触
- 作業器具の共用
- 牛同士の直接接触
- 感染牛の導入
さらに、湿潤な床、通風不足、過密飼育といった環境要因が感染拡大を助長します。

糞尿や汚れた水との接触で感染
3. 症状
初期症状は見逃されがちですが、以下のサインに注意が必要です。
- 踵部皮膚の赤みや腫れ
- 表面に湿った潰瘍やイボ状の病変
- 牛がつま先で歩く、足を振る
- 搾乳時に足を動かして落ち着かない
慢性化すると、角質の過剰形成や肉芽の増生が見られ、治療が難しくなります。
乳量の減少(約1.7%減)や人工授精までの日数延長(約20日)といった生産性の低下も確認されています。

慢性化すると角質や肉芽が増え、治療困難
4. リスク要因
農場レベル
- 過密飼育による通路混雑
- 床や通路の湿潤・汚れ
- 蹄浴(フットバス)の頻度不足
- 外部牛導入時の検査不十分
牛レベル
- 初産牛や分娩後のピーク期
- 遺伝的感受性の高さ(ホルスタインで特に高い傾向)
- 長時間立ち続ける行動習性

蹄浴(フットバス)の頻度不足は発症につながる
5. 治療方法
個別治療
- 蹄の洗浄・乾燥
- オキシテトラサイクリンなどの抗菌剤を塗布
- 必要に応じて包帯を使用(短期間)
- イボ状病変の外科的切除

集団治療
- 蹄浴:硫酸銅、亜鉛、有機酸などを含む溶液を使用
- 深さ12cm、長さ3m以上の浴槽
- 週数回の実施が推奨
- 蹄浴システムによる省力化

浴槽は深さ12cm以上、長さ3m以上が目安
6. 予防策|5つの行動計画
- バイオセキュリティ強化
外部牛導入の制限、器具の共用禁止、訪問者の靴や服の衛生管理。 - 環境管理
床の乾燥維持、糞尿除去、過密回避、通風確保。 - 早期発見・記録
日常的な観察、治療履歴の記録、慢性化牛の淘汰判断。 - 定期蹄浴
泡立ち防止・濃度維持を徹底、非泌乳牛にも対応。 - 教育と目標管理
発生率を定期的に評価し、改善策を共有。

定期的な蹄浴(フットバス)が大事
7. 最新トレンドと研究事例
- AI画像認識による跛行・病変の早期検出
- **微量元素給与(亜鉛・銅)**による皮膚強化
- ロボット蹄浴による省力化と衛生管理
- 遺伝的耐性のある牛の選抜

遺伝的耐性牛を選べば、蹄病リスクを減らせる
まとめ
趾皮膚炎は、乳牛の健康だけでなく、酪農経営全体に影響を及ぼす重大な疾患です。
感染源の除去、環境改善、早期治療、そして継続的な予防管理が重要です。
最新技術や研究成果を積極的に活用し、牛の蹄健康を守ることが、長期的な経営安定と生産性向上につながります。

趾皮膚炎は放置NG!乳牛の健康と経営に直結
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