春先の新緑が芽吹く季節、放牧を開始した途端に予期せぬ事故が起きることがあります。その一つがグラステタニー(低マグネシウム血症)です。牧草の成長条件や肥料の影響でマグネシウム摂取が不足すると、興奮やふらつき、痙攣といった急性症状が現れ、迅速な対応を怠ると致命的になります。本記事では、原因の仕組みから現場で使える予防策、発症時の応急対応まで、酪農家がすぐ実行できる実務的な対策を草地・飼料生産学研究室に所属していた筆者がわかりやすくまとめました。

春先の放牧で起こる急性症状、グラステタニーに要注意!
グラステタニー(grass tetany / 低マグネシウム血症)とは?
グラステタニー(英:grass tetany、別名:grass staggers)は牛でよく見られる代謝性疾患で、その主因は血中マグネシウム(Mg)の急激な低下です。特に春先に急成長した青草(lush grass)を食べ始めたときに多発し、興奮やよろめき、痙攣、最悪の場合は突然死に至ります。酪農経営においては乳量低下や治療費・ロスという形で経済的影響が出るため、放牧開始前後の予防管理が重要です。

グラステタニー=牛の低マグネシウム血症。特に春先の青草で多発

原因:なぜ春の放牧で起こりやすいのか
主な発生メカニズムは「摂取不足」と「吸収阻害」の二本立てです。春の新草はマグネシウム含量が低下しがちで、同時にカリウム(K)や窒素(N)が高くなる傾向があります。腸管からのMg吸収はカリウム過剰や高窒素条件で阻害され、結果として血中Mgが急速に低下します。特に高泌乳牛や分娩後の牛はMg需要が高く、リスクが増します。
- 牧草の急速成長でMg含量が低い
- 土壌や肥料でKが過剰(堆肥の多用など)
- 高泌乳期や分娩直後の牛は特に脆弱
- テタニー比(K / (Ca + Mg) 当量比)が2.2以上で発症リスクが高まる)

春の新草はマグネシウム含量が低く、摂取不足になりやすい
症状:早期発見が回復につながる
グラステタニーは進行が速く、早期発見・迅速対応が鍵です。典型的な臨床像は次の通り。
- 初期:過敏、落ち着きのなさ、歩行不安定(staggers)、食欲低下、頻尿
- 進行:筋硬直、痙攣、よろめき→転倒
- 末期:呼吸困難や失神、短時間で死亡することもある
放牧直後に興奮やふらつきが見られたら要注意です。現場では倒れている牛の口や鼻の周囲に泡が見えることが多く、迅速なMg投与で回復するケースが多数報告されています。

初期症状は過敏・落ち着きのなさ・歩行不安定・食欲低下
予防策:日常管理でリスクを下げる具体的方法
グラステタニー予防の基本は「マグネシウムの安定供給」と「牧草のミネラルバランス管理」です。以下の実務的対策をルーチン化してください。
対策 | 内容 | 推奨タイミング |
---|---|---|
Mg補給 | 高Mgのリック、プレミックス、サプリメントを放牧開始前から給与。鉱塩との併用で摂取が安定。 | 放牧開始前~春季放牧期 |
牧草分析 | 牧草のMg、K、Ca含量を分析し、テタニー比(K/(Ca+Mg))を確認。 | 春季前・切り返し前 |
粗飼料併用 | 乾草やサイレージを日常的に混ぜ、青草のみの摂取を避ける。 | 毎日 |
土壌管理 | 過剰なK肥料や堆肥の多用を避ける。土壌検査で施肥計画を調整。 | 年度計画時 |
牛の選別配置 | 高齢・高泌乳牛は低リスク区画に配置し、監視を強化。 | 放牧時の群管理 |
具体的な補給例としては、1日あたり牛1頭に対して高Mgリックやプレミックスの規定量を与えることが有効です(製品ごとに用量は異なるため、飼料ラベルや獣医と相談してください)。

牧草分析でMg・K・Ca含量とテタニー比をチェック
治療法:発症したらどうするか(現場対応の手順)
発症時は時間との勝負です。以下は現場で即行できる一次対応の流れです。必ず獣医師と連携してください。
- 安全確保:興奮している牛は人員の安全を最優先に。角や踵による怪我に注意。
- Mg投与:速やかに静脈内または皮下注でのMg投与を行う(使用製品と投与量は獣医指示に従う)。静脈投与後、症状が改善することが多い。
- 牛を安静に:転倒牛は無理に立たせず、安静と保温を確保。
- 獣医連絡:回復後も再発防止のため飼料調整と血液検査を行う。
治療が遅れると致命的となるため、放牧期は緊急用Mg製剤を常備し、スタッフに投薬手順を共有しておくことを強く推奨します。

発症時は時間との勝負!まず人員と牛の安全を確保
よくある質問(FAQ)
Q1: グラステタニーは人に移りますか? A: いいえ。これは牛の代謝性疾患であり、人獣共通感染症ではありません。ただし、死後処理や衛生管理は通常通り注意してください。
Q2: 放牧を止めれば発生しませんか? A: 放牧停止でリスクを下げられる場合もありますが、通年でMg管理をすることが大事です。放牧停止は経営上の影響が大きいため、まずはMg補給と牧草管理を検討してください。
Q3: どの時期が最も注意すべきですか? A: 春先(新草が急速に成長する時期)と、分娩直後〜高泌乳期の牛が特に注意が必要です。
まとめ:現場でできることを確実にルーチン化する
- 何か:グラステタニーは牛の低マグネシウム血症で、春の急成長した牧草で発生しやすい代謝性疾患。
- 原因:新草のMg低下+牧草中K過剰、土壌肥料(堆肥)によるK上昇、高泌乳期のMg需要増が主因。テタニー比が指標。
- 症状:初期は落ち着きのなさ・ふらつき、進行すると痙攣・転倒・突然死。放牧直後の監視が重要。
- 予防:放牧前の牧草分析、日常的なMg補給(リック/サプリ)、粗飼料併用、肥料管理、リスク群の配置でリスク低減。
- 治療:発症時は速やかにMg投与(獣医指導の下)、安静確保、フォローで飼料調整と血液検査を実施。
- 実務アクション:放牧前チェックリスト(牧草分析、Mg常備、スタッフ教育)を作りルーチン化すると再発防止効果が高い。
グラステタニー(牛の低マグネシウム血症)は予防が可能な疾患です。放牧開始前の牧草分析、日常的なMg補給、リスク牛の管理、土壌・施肥計画の見直しをルーチン化すれば発症リスクを大幅に下げられます。現場ですぐ使えるチェックリストを作り、スタッフ全員で共有してください。

グラステタニーは春の新草で発生しやすい牛の低マグネシウム血症
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