牛乳の「見えないリスク」である細菌数は、乳の品質と安全性を大きく左右します。本記事では、総細菌数や大腸菌群数といった基礎知識から、測定方法・基準値、さらに酪農現場で実践できる衛生管理の具体策までを初心者にもわかりやすく解説します。安全でおいしい牛乳づくりのため、まずは細菌数の正しい知識を身につけましょう。

総細菌数と大腸菌群数は、乳の衛生状態を示す重要な指標!
1. 牛乳の細菌数とは?
1-1. 細菌数の定義と重要性
「牛乳の細菌数」とは、生乳(しぼりたての牛乳)や加工乳の中に含まれる細菌の総数を指します。具体的には、総細菌数(Total Bacterial Count, TBC)や大腸菌群数(Coliform Count, CC)、凝固陽性ブドウ球菌数(Coagulase-Positive Staphylococci Count, CPS)などが代表的な指標です。
- 総細菌数(TBC):乳中に含まれるすべての細菌の総数を測定し、品質や安全性のバロメーターとなる。
- 大腸菌群数(CC):糞便汚染の指標であり、衛生管理不備があると数値が上がる。
- 凝固陽性ブドウ球菌数(CPS):Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)など、食中毒の原因となる菌を把握するために測定される。
これらの数値を適切に管理することは、「生乳の安全性」や「乳製品の品質」を維持するうえで欠かせません。細菌数が高いまま出荷されると、腐敗や食中毒リスクが高まり、消費者に健康被害をもたらす恐れがあります。

牛乳の中にこんなに多くの“細菌の種類”が関わってるとは…知らなかった!
1-2. 現場の取り組み紹介:月1回のバルクミルク検査
実際の酪農現場では、牧場からタンクローリーへ集められる「バルクミルク」の細菌数検査を行うことが一般的です。私の牧場でも、月に一度バルクミルク中の細菌の種類検査を実施しており、定期的に総細菌数や大腸菌群数をチェックしています。検査結果をもとに、日々の衛生管理や搾乳工程を見直し、品質向上に努めています。

検査データをもとに“搾乳作業や洗浄方法”を見直してるよ

2. 細菌汚染の主な原因とリスク
酪農現場で細菌数が増える原因はいくつかあります。ここでは、代表的な4つの要因を図表とともに解説します。
原因 | 細菌数の目安 | 詳細 |
---|---|---|
乳房炎 | 10<sup>7</sup>個/mL 以上 | 健康な牛の乳房内細菌数は微量だが、乳房炎を発症するとStreptococcus属やStaphylococcus属の細菌が急増。 |
汚れた乳頭 | 約10<sup>4</sup>〜10<sup>7</sup>個/mL | 糞や泥、飼料や敷料が乳頭に付着すると、1gあたり10<sup>8</sup>個以上の細菌が混入することも。洗浄不足が原因。 |
設備の清掃不良 | LPCs(低温殺菌耐性菌)増加 | 洗浄・殺菌が十分でないと耐熱性の芽胞菌(Bacillus属など)やグラム陰性桿菌(大腸菌、Pseudomonas)が残存。 |
貯蔵条件の不備 | 急速な細菌増殖 | 4.4℃以上で保存すると、心理栄養性細菌が2〜3日で急増。7.2℃以上ならStreptococcus属が増え、酸敗や風味異常を招く。 |

4.4℃を超えるだけで細菌が急増するなんて、温度管理って超重要!
2-1. 乳房炎がもたらす影響
健康な牛の乳房内では、自然な細菌叢(さいきんそう)の影響で細菌数は1,000個/mL未満にとどまることがほとんどです。しかし、牛が乳房炎を患うと、感染の程度や菌株によっては細菌数が10<sup>7</sup>個/mLを超え、すぐに乳全体へ広がります。主な病原菌としては、
- 黄色ブドウ球菌
- 大腸菌
- レンサ球菌
などがあり、放置すると乳質低下や出荷停止につながるため、早期発見・早期治療が欠かせません。

牛の健康=牛乳の安全ってことがよく分かる!
2-2. 汚れた乳頭からの細菌混入
搾乳前の乳頭(乳首)の汚れには、牛舎の床に付着した糞や泥、敷料に含まれる微生物が含まれます。重度の汚れでは、1gあたり10<sup>8</sup>個以上の菌が混入し、汚したまま搾乳すると乳内に大量の細菌が侵入します。搾乳前に乳頭を温水や専用洗浄剤できれいに洗い流すことが、細菌数低減の第一歩です。

乳頭が汚れたまま搾ると、そのまま菌がミルクに…想像したくない
2-3. 設備の清掃不良による耐熱性細菌の増殖
パイプラインやバケツ、タンクなどの設備に乳成分が残ったまま放置されると、撹拌(かくはん)時や次の搾乳時に耐熱性の芽胞菌(Bacillus属、Paenibacillus属)が増殖します。また、グラム陰性桿菌(大腸菌、Pseudomonas属)が入ると、低温殺菌(LPCs)しても完全に死滅せず、後工程の保管中にも増殖しやすくなります。設備には塩素系・ヨウ素系の殺菌剤を用い、每日の作業後にしっかり洗浄・殺菌を行いましょう。

放置された乳成分、実は菌の温床だったのね…
2-4. 貯蔵条件の不備と細菌増殖
搾乳後の貯蔵・冷却が適切でないと、乳中の心理栄養性細菌が急速に増殖します。
- 4.4℃以下:細菌増殖を最低限に抑えられる
- 7.2℃以上:Streptococcus属が繁殖しやすく、酸敗や風味異常を引き起こす
一般的にタンクローリー到着までにできる限り速やかに冷却し、4.4℃以下で保管・輸送することが重要です。

“ちょっと冷えてる”じゃダメなんだね。4.4℃以下が鉄則!
3. 乳中に検出される主な細菌と特徴
牛乳中には日常的にさまざまな細菌が混入しますが、特に注目すべき代表的な菌種とその特徴を解説します。
3-1. 球菌(Streptococcus属、Lactococcus属、Enterococcus属)
- 特徴:球状のグラム陽性菌で、冷却不十分や汚れた設備、乳房炎と関連
- 例:
- Streptococcus agalactiae:乳房炎原因菌として知られ、長い鎖状を形成。0.5〜1.2μm程度の大きさで、カタラーゼ(Catalase)陰性。
- Lactococcus lactis:発酵乳製品のスターターとして使われるが、牛乳中にも常在する場合がある。
- Enterococcus faecalis:糞便由来の菌として乳中に混入することがあり、耐熱性が比較的高い。
これらの球菌は、特に冷蔵が不十分な状況や、設備の隙間に付着した古い乳成分から増殖しやすいため、徹底した掃除と速やかな冷却が求められます。

乳酸菌っていい菌だけじゃないのね…
3-2. ブドウ球菌(Staphylococcus属、Micrococcus属)
- 特徴:球状のグラム陽性菌で、乾燥や塩分に強く、乳房炎を起こす菌としても知られる
- 例:
- Staphylococcus aureus:食中毒原因菌として代表的。搾乳時に乳頭周辺や器具から乳中に混入し、適切な加熱殺菌が行われないと生き残りやすい。サイズは0.5〜2.0μmで、カタラーゼ陽性。
- Micrococcus luteus:黄色いコロニーを作ることが多く、雰囲気を好むが毒素産生性は低い。
特にStaph. aureusは、乳製品の製造中に耐熱性毒素を産生しやすいため、搾乳だけでなく加熱殺菌工程の温度・時間管理も厳重に行う必要があります。

搾乳器具の清潔さって、ほんとに重要なんだなと実感
3-3. 桿菌(Pseudomonas属、大腸菌群)
- 特徴:細長い桿状でグラム陰性。環境耐性が高く、冷蔵温度でも増殖可能
- 例:
- Escherichia coli:糞便汚染の指標として使われる代表的な菌群。牛の腸管に常在するため、糞が乳に混ざると数が急増する。
- Pseudomonas fluorescens:低温でも増殖でき、腐敗に伴い異臭を放つ。生乳中や設備表面に付着しやすい。
桿菌は冷蔵温度(4℃前後)でも増殖が可能であり、特に搾乳後の低温保管で突然増え出すことがあります。搾乳前の乳頭洗浄や、設備の隙間・パッキン部分までの徹底洗浄が有効です。

“冷やせば安心”って思ってたけど、それだけじゃダメなんだね
3-4. 耐熱性菌(Bacillus属、Paenibacillus属)
- 特徴:芽胞を形成し、加熱殺菌(低温殺菌や高温殺菌)後も生き残ることがある。繁殖すると乳製品の腐敗を引き起こす。
- 例:
- Bacillus cereus:芽胞を形成し、吸熱殺菌をくぐり抜ける。乳製品や冷凍食品による食中毒で知られる。
- Paenibacillus polymyxa:乳製品に腐敗臭を与えやすく、チーズの品質低下を招くことがある。
耐熱性菌を抑えるには、設備洗浄だけでなく、加熱殺菌後の製品の速やかな冷却・保管を行い、再増殖を防ぐ必要があります。

耐熱性菌は加熱しても死なない“芽胞”を作るのが特徴
4. 細菌数の測定方法と基準値
牛乳の細菌数を適切にコントロールするためには、正しい測定方法と基準値の理解が欠かせません。ここでは代表的な測定方法と、国際的・国内的な基準について解説します。
4-1. 代表的な測定方法
- 標準平板培養法(Standard Plate Count, SPC)
- 概要:乳サンプルを希釈し、培地に塗布して一定時間(通常35〜37℃で24〜48時間)培養後、コロニー数を数える方法。
- メリット:簡便で再現性が高く、総細菌数(TBC)を測定する際のゴールドスタンダードとされる。
- デメリット:培養が完了するまでに時間がかかる(最低24時間以上)。
- 直接顕微鏡法(Direct Microscopic Clump Count, DMCC)
- 概要:乳サンプル中の細菌を顕微鏡で直接観察し、細菌の塊(クラスタ)の数を数える方法。タンクローリー受け入れ検査などで簡易チェックに使われることがある。
- メリット:培養法よりも短時間で結果が得られる(数分〜数十分)。
- デメリット:試験者による誤差が大きく、定量性はやや低い。
- 直接顕微鏡法(Direct Microscopic Somatic Cell Count, DMSCC)
- 概要:乳サンプル中の体細胞数(Somatic Cell Count, SCC)を顕微鏡で直接カウントする方法。主に乳房炎の検出に利用され、細菌数とは異なるが、乳質判定に重要。
- メリット:乳房炎の早期発見に有効。
- デメリット:体細胞数の測定であり、細菌数を直接測る方法ではない。

へぇ〜、DMCCはタンクローリーでも使われてるんだ
ワンポイント:一般的に酪農家が毎日行うチェックとしては、乳質検査(体細胞数・菌数)とバルクミルクの検査があり、タンクローリーが工場に到着する際に迅速検査(DMCCなど)を行うことが多いです。
4-2. 主な基準値(国際・国内)
指標 | 国際基準(目安) | 日本国内(一般的な流通基準例) |
---|---|---|
総細菌数(TBC) | 10<sup>5</sup>個/mL 未満 | 5×10<sup>5</sup>個/mL 未満 ※1 |
大腸菌群数(CC) | 10<sup>2</sup>個/mL 未満 | 3×10<sup>2</sup>個/mL 未満 ※2 |
凝固陽性ブドウ球菌数(CPS) | 2×10<sup>3</sup>個/mL 未満 | 5×10<sup>3</sup>個/mL 未満 ※3 |

日本の方がちょっと緩めの基準なんだ…
※1:都道府県や製造元によって基準が異なる場合があります。
※2:大腸菌群数の基準も各都道府県や業界団体で定められていることが多いです。
※3:CPSの基準は食品衛生法施行規則により細かく定められており、製造工程や製品種類によって基準値が異なります。
5. 酪農現場で行う細菌数低減策
酪農現場で実践できる主な細菌数低減策を、具体的な手順とともに紹介します。初心者でも押さえておきたいポイントです。
5-1. 搾乳衛生管理
- 乳頭の洗浄・消毒
- 搾乳前に乳頭をぬるま湯(約40℃前後)で洗浄し、専用の乳頭洗浄液や消毒液を使って皮脂汚れや糞を落とす。
- 清潔なタオルや専用のペーパータオルで水分をしっかり拭き取り、乾燥させる。
- 肌荒れや炎症がある場合は、乳頭に直接触れないように注意し、獣医師に相談する。
- 乳房炎の早期発見
- 毎日搾乳前に乳房を触診し、腫れや熱感、硬さの変化をチェックする。
- 視診で乳頭や乳房の皮膚の損傷、分泌物に異常がないか確認する。
- 異常が見つかった場合は、速やかに分泌物を培養検査に回して乳房炎菌の特定を行い、適切な抗生物質治療や予防策(ワクチン接種など)を実施する。

洗うだけじゃなくて“乾かす”のも細菌対策には必要なんだね

5-2. 設備の洗浄・殺菌
- 日々の洗浄手順
- 搾乳作業終了後、まず流水で目立つ汚れや残乳を洗い流す。
- 次に、**乳用洗浄液(塩素系またはヨウ素系など)**を希釈してタンクやパイプライン、バケツなどに通し、内側の汚れを溶かしながら洗う。
- 最後に十分な真水でしっかりすすぎを行い、洗浄剤残留を防ぐ。
- 定期的なバイオフィルム除去
- 長期間使用していると、パイプ内部に微生物が集まってバイオフィルム(水や細菌の集合体)を形成することがある。
- 月に1回程度、専用の酸性クレンザーや高圧洗浄を使ってバイオフィルムを剥がし、取り除く。
- 殺菌作業
- 洗浄後、55℃以上の温水を通すことで、耐熱性菌を含む多くの細菌を死滅させることができる(温水殺菌)。
- タンクの内部に専用の漂白剤(塩素系)やヨウ素系消毒剤を一定時間循環させ、殺菌する方法もある。

まずは“見える汚れ”を取るのが鉄則だよね。残乳の放置はホント危険
5-3. 迅速冷却と温度管理
- 搾乳直後の冷却
- 搾乳した牛乳はできるだけ速やかに10℃以下まで冷却し、タンクに貯蔵後は4.4℃以下を維持する。
- 搾乳施設に設置されたクーラーや氷水を利用した冷却システムを活用し、乳温を下げる。
- タンクローリー搬送時の注意点
- タンクローリーに積まれた牛乳も、搬送中は4℃前後を保つように温度管理を行う。特に夏場や長距離輸送では、予備の冷却装置(氷水循環装置など)を使うと安心。
- 到着後の工場検査までの時間が長い場合、再度温度チェックし、異常があればすぐに対応する。
- 施設全体の温度管理
- 搾乳室や貯蔵室は直射日光を避け、室温が高くならないように日よけや換気を行う。
- 夏季には扇風機やエアコンを活用し、室温を25℃以下に抑えることで、牛のストレス軽減や乳質安定にもつながる。

牛にとっても“25℃超え”はストレス
5-4. 健康な乳牛の管理
- 定期的な健康チェック
- 獣医師による定期検診を実施し、乳房炎の罹患状況や乳質(体細胞数、細菌数)を確認する。
- 免疫力を下げないよう、栄養バランスの取れた飼料を与え、ストレス環境(狭い牛舎、高温多湿など)を避ける。
- ワクチン接種・予防策
- ストレプトコッカス属やスタフィロコッカス属などの乳房炎原因菌に対するワクチン接種を行い、感染予防に努める。
- 牧場内の環境衛生(牛舎の床材交換、乾燥状態の維持)を徹底し、病原菌の繁殖を防止する。

暑さや湿気で“乳房炎の兆候”が出やすくなる季節は要注意
6. 消費者への健康リスクと酪農家の責任
細菌数が高い牛乳をそのまま消費すると、以下のような健康リスクや品質低下が懸念されます。酪農家としては、消費者に「安心・安全」な牛乳を届ける責任があります。
6-1. 食中毒リスク
- E. coli(大腸菌):糞便汚染が原因で、大腸菌性食中毒を引き起こす。症状は激しい下痢や腹痛、嘔吐など。免疫力が低い子どもや高齢者は重症化しやすい。
- Salmonella(サルモネラ属):発熱、腹痛、嘔吐、下痢などの症状を引き起こす。乳製品を介したサルモネラ食中毒事例は過去にも報告されており、加熱殺菌だけでなく、衛生管理全般の徹底が求められる。
- Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌):牛乳中で増殖し、耐熱性の毒素を産生することがある。毒素は70℃で数分加熱しても分解されにくく、加熱殺菌後でも食中毒の原因となるため注意が必要。

“加熱だけじゃ防げない”からこそ、毎日の洗浄と確認が超重要
実例:エチオピアで行われた調査では、380サンプル中33.9%がE. coliに汚染されているという報告があります。このうち、細菌数が高いサンプルは腐敗や食中毒リスクが顕著に高く、衛生管理の不備が直接的な要因とされています(X投稿: TheChefsGardens)。
6-2. 乳製品の品質低下
- 腐敗臭・酸敗:細菌が増殖すると、乳中の脂肪やタンパク質を分解して酢酸や酪酸などの有機酸を生成し、酸敗臭が発生。ヨーグルトやチーズなどの発酵製品でも、腐敗菌が優勢になると風味異常が起こる。
- 風味変化:Pseudomonas属などの桿菌は、タンパク質分解酵素を分泌して乳タンパクを分解し、特有の苦味や酸味を与える。消費者が購入した製品の品質に対してクレームに繋がりやすく、販売機会やブランドイメージを損なう。

ヨーグルトの酸味と“腐敗臭”は別物。現場にいると、違いがはっきりわかる
6-3. 酪農家の責任と心構え
- 消費者第一の視点を持つ
- 目に見えない細菌数に対しても、「自分が消費者だったらどう感じるか」を常にイメージし、徹底した衛生管理を行う。
- 品質管理を怠ると、消費者の信頼を一瞬で失ってしまうことを肝に銘じる。
- 情報発信と透明性の確保
- 異常があった場合は、速やかに連絡体制を整え、消費者や受け入れ工場に情報を共有する。
- ブログやSNSで、酪農の衛生管理方法や品質向上の取り組みを発信することで、消費者との信頼関係を築く。
- 継続的な品質向上へのコミットメント
- 1度きりの対策では不十分。月1回のバルクミルク検査をはじめ、定期的な検査と振り返りを行い、問題点を可視化・改善する。
- 新しいノウハウや技術(自動洗浄システム、リアルタイム細菌センサーなど)が登場した際は、積極的に導入を検討し、常に最新の衛生管理を維持する。

ミスを隠すより、早く共有して“信頼を守る”ほうがずっと誠実だと思う
7. 酪農牛乳の品質向上に向けて
7-1. 他地域の事例から学ぶ
- エチオピア調査(Asella, Ethiopia)
- 調査対象:50の酪農場
- 結果:66%の農場で総細菌数が5.25 log cfu/mL(約3.3×10<sup>5</sup>個/mL)を超過していた。
- 考察:設備の老朽化や衛生管理の意識不足が主因とされ、簡易な洗浄手順の見直しや定期的なトレーニング導入が推奨された。
- 国内事例(日本)
- 地域によってはTBCが10<sup>6</sup>個/mLを超える農場もあり、乳製品メーカーが契約剥奪を行うケースがある。
- 「搾乳ロボット」や「自動洗浄ライン」を導入する中規模〜大規模牧場では、平均TBCが10<sup>4</sup>〜10<sup>5</sup>個/mLに抑えられており、投資効果が高いという報告がある。

たった1回の洗浄を見直すだけで、菌数が大きく変わるって事実、重い。
7-2. 機械化・自動化の活用
- 搾乳ロボットの導入
- 自動で乳頭の位置を検出してやさしく搾乳し、搾乳後に自動で乳頭を洗浄するタイプもある。
- 人手によるバラつきが減り、乳頭へのダメージが少なく、乳房炎発症率が低くなるというメリットがある。
- 自動洗浄装置・クリーンインプレース(CIP)システム
- パイプラインやタンク内部を自動で洗浄・殺菌するCIPシステムを導入することで、人手不足や洗浄手順のミスを防ぎ、設備の管理水準を維持しやすくなる。
- 洗浄プロセスのデータをクラウド上で可視化し、異常があればアラートを出す仕組みを取り入れる牧場も増えている。
- IoTセンサーによる温度・菌数モニタリング
- 貯蔵タンクや搾乳室にIoTセンサーを設置し、常に温度や湿度を監視。設定温度を外れると自動で冷却システムを稼働させる。
- 一部メーカーからは「リアルタイム細菌カウントセンサー」も開発されており、搾乳後すぐにおおまかな菌数を測定できるようになりつつある(※現在は導入コストが高いため、導入検討は設備規模に応じて判断が必要)。

“人が疲れてても、ロボットは疲れ知らず”…乳牛にも人にも優しいわけだ

8. まとめ:目指せ、安全でおいしい牛乳!
牛乳の細菌数は、消費者の健康リスクと乳製品の品質を大きく左右する重要な指標です。以下のポイントを押さえ、日々の酪農業務に活かしましょう。
- 牛乳の細菌数とは?
- 総細菌数(TBC)、大腸菌群数(CC)、凝固陽性ブドウ球菌数(CPS)などを指標として用い、乳の安全性・品質を評価する。
- 月1回のバルクミルク検査を行い、現場の数値を把握する。
- 細菌汚染の原因
- 主に乳房炎、乳頭の汚れ、設備の清掃不良、貯蔵温度の不備。
- 乳房炎では細菌数が10<sup>7</sup>個/mLを超えるケースがあり、早期発見・治療が重要。
- 主要細菌の種類と特徴
- 球菌(Streptococcus属、Lactococcus属、Enterococcus属)
- ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、Micrococcus属)
- 桿菌(E. coli、Pseudomonas属)
- 耐熱性菌(Bacillus属、Paenibacillus属)
- 測定方法と基準値
- SPC(標準平板培養法)、DMCC(直接顕微鏡法)、DMSCC(体細胞数測定)。
- 国際基準:TBC < 10<sup>5</sup>個/mL、CC < 10<sup>2</sup>個/mL、CPS < 2×10<sup>3</sup>個/mL。
- 細菌数低減策
- 搾乳前の乳頭洗浄・消毒、乳房炎の早期治療。
- 設備の徹底洗浄・殺菌(CIPシステムの活用も推奨)。
- 搾乳後の迅速冷却(4.4℃以下の徹底)。
- 健康な乳牛管理と定期的な獣医師診察。
- 消費者への健康リスクと責任
- E. coli、Salmonella、Staph. aureusなどによる食中毒リスク。
- Pseudomonas属などによる腐敗・風味異常。
- 情報発信と透明性の確保で消費者の信頼を獲得する。
- 品質向上に向けた機械化・自動化
- 搾乳ロボットやCIPシステム、IoTセンサーの導入。
- 定期的なデータ分析と継続的な改善で、高品質な牛乳を安定的に生産する。
最後に、この記事を読んでいただいた方は、酪農現場にいる従事者だけでなく、これから酪農を始めたい初心者の方や、酪農教育を受けている学生の方々も多いかと思います。適切な衛生管理を実践することで、消費者に「信頼される牛乳」を届けることができます。見えないリスクである細菌をしっかり把握し、安全・安心なおいしい牛乳づくりに取り組んでいきましょう。

牛乳の細菌数は消費者の安全を守る超重要ポイント!
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