牛乳は栄養豊富で毎日の食卓に欠かせない飲み物ですが、保存中のちょっとした管理のズレで「苦い」「酸っぱい」「加熱すると固まる」といった風味異常に見舞われることがあります。その原因の代表格が、**低温菌(psychrotrophic bacteria)**です。本記事では、専門的な知見を交えつつ、初めての方にもわかりやすく解説します。

毎日飲む牛乳だからこそ、品質管理が大切。
1. 低温菌の基本特徴
1-1. 定義と代表菌種
- 定義:一般に「低温菌」とは、7℃以下の冷蔵温度域でも増殖可能な細菌群を指します。
- 代表的な属:
- Pseudomonas(特に P. fluorescens, P. fragi, P. putida)
- Bacillus、Serratia、Acinetobacter など
これらの菌は、畜舎内や搾乳機器、貯蔵タンクなどに微量存在し、冷蔵庫での保存中に増殖。牛乳の組成を変化させ、見た目・風味・食感を劣化させます。

冷蔵庫でも油断禁物!7℃以下で増殖する細菌がいます。
1-2. 増殖しやすい条件
- 冷却の遅れ:搾乳後すぐに4℃以下へ冷却しないと、瞬く間に増殖が始まります。
- 不十分な衛生管理:ミルカーやパイプライン、タンクの洗浄・消毒が不十分な場合、菌の温床になります。
- 冷蔵庫内の温度ムラ:頻繁な開閉や冷却効率の低い設備では、一部が7℃以上になりやすく、低温菌の繁殖リスクが高まります。


冷蔵庫のドア、開けすぎ注意!温度ムラが菌を元気にします。
2. 低温菌による風味異常のメカニズム
低温菌の恐ろしさは、加熱殺菌後も残る酵素活性にあります。以下の2大酵素が主役です。
2-1. プロテアーゼ(Protease)
- 作用:牛乳中のカゼインなどのタンパク質を分解
- 影響:苦味を伴うペプチドを生成し、口当たりがザラつくことも
- 耐熱性:高温短時間殺菌「HTST」(72℃×15秒)や超高温短時間殺菌「UHT」(135℃×数秒)装置でも約60〜70%が残存

苦味の原因、それは“タンパク質を分解する酵素”かも!
2-2. リパーゼ(Lipase)
- 作用:牛乳の脂肪トリグリセリドを分解し、遊離脂肪酸を放出
- 影響:酸敗臭(ランチド臭)や金属的なかび臭を発生
- 耐熱性:プロテアーゼ同様、高温処理後も30〜50%が機能を保持
これらの酵素は、**高温短時間殺菌(HTST)や超高温瞬間殺菌(UHT)**といった一般的な殺菌法をくぐり抜け、パッケージ内でゆっくりと風味を劣化させていきます。

脂肪の分解で“遊離脂肪酸”が増え、異臭のもとに。
3. 実際の事例:東海牛乳の大規模自主回収
2025年5月30日、東海牛乳株式会社は賞味期限6月10日までの製品約230万本を自主回収。社内改善後、賞味期限6月11日以降製品で一旦は販売再開しましたが、再度「味が普段と違う」「加熱すると固まる」といった報告が相次ぎ、さらに220万本を追加回収しています。
- 原因究明:工場内外から混入した低温菌が、製品内でプロテアーゼ・リパーゼを活性化
- 健康被害:食中毒菌ではなく、深刻な体調不良を引き起こすものではないと確認
- 経済的影響:計450万本超の回収コスト、ブランド信頼低下 → 業界全体への警鐘
この事例は、低温菌がいかに厄介であるかを端的に示しており、乳業メーカーだけでなく、家庭での取り扱いにも教訓を投げかけます。
【関連記事】
東海牛乳が再び自主回収&本社工場休止を発表|【6/10発表】
東海牛乳がなぜ230万本も自主回収?原因は「アウトサイダー生乳」の管理体制にあり。
4. 風味異常を防ぐ!低温菌対策のポイント
4-1. 衛生管理の徹底
- 搾乳機器や配管、貯蔵タンクは週1回以上の分解洗浄+消毒が望ましい
- 除菌剤は酸性・塩素系をローテーションし、耐性菌の発生を防止

塩素だけじゃNG!“酸性剤”と交互に使って耐性菌ブロック!
4-2. 迅速な冷却プロセス
- 搾乳後30分以内に牛乳を4℃以下へ冷却
- 冷却プロファイルを記録管理し、異常を早期検知

「冷却のスピード」が牛乳の品質を左右する!
4-3. 最適な殺菌方法の選択
方法 | 温度×時間 | 特長 | 注意点 |
---|---|---|---|
LTLT | 63℃×30分 | 風味保持性が高い | 保存期間は短め |
HTST | 72℃×15秒 | 風味と殺菌効果のバランス良好 | 一部酵素活性が残存 |
UHT | 135〜150℃×数秒 | 室温保存可能、長期流通向き | 加熱臭や風味変化が起こりやすい |
- 家庭用にはHTST方式の低温殺菌牛乳が主流。長期保存が必要な場合はUHT製品を選びましょう。

5. まとめ:おいしさを守るために
- 低温菌は冷蔵庫内でも繁殖し、熱処理後もプロテアーゼ・リパーゼが風味劣化を引き起こす
- 東海牛乳の大量自主回収事例の計450万本回収は低温菌が原因
- 衛生管理・迅速冷却・適切殺菌の3点セットで、風味異常リスクを大幅に低減可能
- 風味異常メカニズム:タンパク質分解による苦味、脂肪分解による酸敗臭
- 予防ポイント:徹底した衛生管理、30分以内の迅速冷却、適切な殺菌法選択
- 家庭での注意:開封後は賞味期限内に早めに消費し、冷蔵庫内温度ムラを避ける
毎日の牛乳を美味しく・安全に楽しむためには、乳業メーカーの取り組みはもちろん、消費者としてもパッケージの賞味期限や保存方法に注意を払いましょう。

家庭でも要注意!開封後は“早めに消費”が鉄則!
※本サイトで紹介している商品・サービス等の外部リンクには、アフィリエイト広告が含まれる場合があります。
コメント