酪農基礎講座第四回:酪農の施設と設備

酪農

乳牛は放牧をしており、草原で飼育されているイメージがありますがほとんどの牧場では乳牛を飼育する施設設備が必要です。搾乳牛を飼う施設を大きく分けると繋ぎ飼い牛舎放し飼い牛舎の2つに分けることができます。そこで今回はそれぞれの乳牛の施設と設備について解説していきます。

繋ぎ飼い牛舎と放し飼い牛舎のメリット・デメリットの比較

二つの牛舎について詳しく説明する前にそれぞれの牛舎でのメリットとデメリットの比較をしていきます。

繋ぎ飼い牛舎のメリット

  • 省スペースで少ない土地を有効活用
  • 牛の場所がわかるので個体管理がしやすい(餌の量を個別に変えれる)
  • 土地代が安く済む(神奈川県は土地代が高く、繋ぎ飼いがメイン)

繋ぎ飼い牛舎のデメリット

  • 搾乳や餌やりなどに時間がかかりやすい
  • 牛が一箇所に留まるので運動不足になりやすい
  • 頭数が増え、大規模になると労力が増える(50頭以下での飼育が多い)

放し飼い牛舎のメリット

  • 自由に動けるのでストレス低減アニマルウェルフェアへの配慮
  • 足腰が健康的になる(約800kgある体重を足が支えているので乳牛にとって大事なことです)
  • 発情兆候がわかりやすい(前回の記事で触れた通り牛乳生産繁殖は密接な関係にあります)

アニマルウェルフェアについて詳しく知りたい方はこちら↓

放し飼い牛舎のデメリット

  • 個体管理がしにくい餌の管理がしにくく、疾病の発見も遅れます
  • 歩けるスペースが必要なので、その分土地多く必要

繋ぎ飼い牛舎の方式

牛の向きによって決まる名称

繋ぎ飼い牛舎には頭同士を向かい合わせる対頭式。その逆のお尻同士向かい合わせる対尻式があります。

頭が中央に向いているため対頭式飼料給与がしやすく対尻式搾乳糞尿処理の作業がしやすいです。

繋留方式による名称

スタンチョン方式

2本のパイプで、個体の頸部を抜けない程度に繋留する方式です。座る、立つ、伸びはできますが自由度が低いのが特徴です。

タイストール方式

スタンチョンの代わりに個体につけた首輪チェーンをつけて繋留する方式です。自由度が高いですが、牛体の長さより牛床の方が長いため、糞などによって体が汚れやすいです

牧場によってはカウトレーナーという微弱の電気が流れている器具を設置しています。この器具は糞尿をするときに背骨を曲げる特性を利用して、位置を調整します(僕は高校一年生の時にこの器具を知らず、雑巾で拭き掃除をしているときに何回も感電しました)。

コンフォート方式

タイストール方式と同じく首輪チェーンをつけて繋留する方式ですが、牛床が比較的長いのが特徴です。

こちらはカウトレーナーではなくネックレールというバーで糞尿する位置を調整しています。

搾乳方式

繋ぎ飼い牛舎では、一頭ずつミルカーという搾乳する機械を移動させて牛乳を搾ります。搾られた牛乳はミルカーに付属したバケットを手で運ぶか、パイプの中に牛乳を通して(パイプライン)で自動的に運び、バルククーラーという牛乳用の冷蔵庫に移送する。

ミルカー手で運ぶか、天井にレールを設置し懸架式のユニットで移動させる方法がある。最近では自動化が検討され、搾乳ユニットが自動的に移動する『キャリロボ』の導入もされている。

放し飼い牛舎の方式

放し飼い牛舎ではベット(牛床)の有無や飼育する場所の床面の違いで、三つの種類に分けることが出来ます。牧場によっては搾乳牛舎乾乳牛舎で方式が違う場合があります。

餌については繋ぎ飼い牛舎とは違い、牛に食べに来てもらう方式です。群全体に餌を給与するため、TMRを利用することが多いです。

TMRについての詳しい記事はこちら↓

ルーズバーン方式

3種類の中で建設費が最も安い、屋根だけの牛舎です。しかし、牛群の中にも社会的順位があるため良好な場所を占領する牛と、劣悪な場所に追いやられる牛で分かれることになります。

フリーストール方式

ルーズバーンとは違い、個別のストール(牛床)があります。また、糞の落ちる場所が一定のため、バーンスクレッパーという自動的に除糞をしてくれる機械やローダーが一直線で除糞できるなど糞尿処理が楽です。しかし、地面がコンクリートのため肢蹄が弱くなります。この対策として近年では通路にもマットが敷かれることが多いです。

フリーバーン方式

牛が休息する場所が発酵床になっている方式です。発酵床は戻し堆肥にオガ屑やチップを混ぜ合わせたものです。牛にとって肢蹄の負担が減るのですが、発酵床の水分調整などの管理が難しく、乳房炎の発症の原因にもなるので注意が必要です。

搾乳方式

繋ぎ飼い牛舎と違い、牛をミルキングパーラーという設備に移動させて搾乳をします。ミルキングパーラーには様々な種類がありますがここでは有名なものを紹介します。ヘリンボーン方式という牛を斜めに並べて搾乳するものが一般的です。また、頭数の多い牧場では回転する円板にのせて回しながら搾乳するロータリーパーラーもあります。他にも搾乳ロボットを設置し、自動的に搾乳してもらうシステムなど様々な種類があります。

まとめ

繋ぎ飼い牛舎

メリット:

  • 省スペースで土地を有効活用できる
  • 個体管理がしやすく、餌の調整が可能
  • 土地代が安く済む

デメリット:

  • 作業に時間がかかる(餌やりや搾乳など)
  • 牛が運動不足になりやすい
  • 頭数が増えると労力が増える

放し飼い牛舎

メリット:

  • 自由に動けることでストレスが軽減され、足腰が健康に保たれる
  • 発情兆候がわかりやすい
  • アニマルウェルフェアに配慮

デメリット:

  • 個体管理が難しく、疾病の発見が遅れる可能性
  • 広い土地が必要

飼養する頭数、土地や経営方針によって様々な選択肢があるため一ヶ所の牧場だけでなく、いろんな牧場に研修に行くことを強くお勧めします!

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この記事を書いた人

神奈川県横浜市の非農家に生まれる。実家では犬を飼っており、犬部のある神奈川県立相原高校畜産科学科に進学。同級生に牛部に誘われ、畜産部牛プロジェクトに入部。牛と出会う。

大学は北海道の酪農学園大学に進学。サークルの乳牛研究会にて会長を務める。

今年で酪農歴10年!現在は関西の牧場にて乳肉兼業農場の農場長として働いています。

毎日牛乳1L飲んでます!

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