牛のふんを「捨てるもの」から「使える資源」へ。静岡県富士宮市・朝霧高原にある市の瀬牧場では、牛糞尿をメタン発酵でバイオガスとして回収し発電に利用、発酵残渣を脱水・乾燥して固形燃料や堆肥として地域に還元しています。本記事では、処理の流れ、現場での工夫、環境・経済面での効果を現場目線でわかりやすく整理します。
1. なぜ「牛糞固形燃料」が注目されるのか
酪農では牛糞尿が大量に発生し、放置すれば悪臭や地下水汚染の原因になります。一方で有機物エネルギーとしてのポテンシャルも高く、適切に処理すればメタン発酵によるバイオガス発電や、脱水・乾燥による固形燃料(ペレット等)化が可能です。固形燃料は石炭などの化石燃料の代替として使えるため、温室効果ガス削減やエネルギー自給に寄与します。

2. 市の瀬牧場と富士山朝霧バイオマスプラントの概要
市の瀬牧場は富士宮市の朝霧高原に位置する大規模酪農場で、地域のバイオマスプラントと連携して牛糞尿を資源化しています。牧場から集めた糞尿はメタン発酵槽で分解され、発生したバイオガスは発電に用いられます。発酵後の残渣は脱水・乾燥処理され、燃料ペレットや堆肥として再利用されます。
3. 処理プロセスの要点(現場で重要なポイント)
- 収集と運搬:牛舎から液状・固状の糞尿を分けつつ集め、プラントへ運搬。運搬距離が短いほどコスト低減。
- メタン発酵:嫌気性発酵槽で微生物が有機物を分解し、バイオガス(主にメタン)を生成。温度管理と攪拌が安定稼働の鍵。
- 発電利用:得られたバイオガスはその場で発電(および熱利用)に回すことでエネルギー効率を高める。
- 残渣の処理:発酵後の脱水・乾燥で固形化。燃料ペレット化によって長期保存・輸送が容易になる。

4. 稼働データと運用の実感(現場目線)
運用側が重視するのは「処理安定性」と「収支」です。処理量や稼働率は季節やスタッフの運用スキルに左右されますが、適切な温度管理と投入原料の均質化で稼働率が改善します。発電で得られる売電収入は運転コストの一部を賄い、残渣の堆肥・燃料販売が副収入につながります。
項目 | 処理イメージ | 期待される効果 |
---|---|---|
メタン発酵 | 糞尿→バイオガス | 発電・熱利用、温室効果ガス低減 |
脱水・乾燥 | 残渣→固形燃料 | 燃料化で廃棄物削減、輸送・保管性向上 |
堆肥化 | 一部は農地還元 | 土壌改良・肥料販売による収益化 |
5. 環境・経済・社会へのメリット
環境面:メタンを燃焼してCO₂を排出する際でも、化石燃料に比べたライフサイクルでの温室効果ガス削減が期待できます。悪臭や地下水汚染リスクの低減も重要な効果です。
経済面:発電による売電、固形燃料・堆肥の販売は牧場収支の安定化に寄与します。初期投資はかかりますが、長期的にはコスト削減につながり得ます。
社会面:地域の悪臭問題が改善され、周辺住民との関係が良好になるといった社会的メリットも大きいです。地域循環のモデルとして自治体連携の好事例になります。
6. 現場でよく直面する課題と対策
代表的な課題と現場での対策例を挙げます。
- 臭気管理:密閉・活性炭フィルターや脱臭工程の導入、現場清掃の徹底で低減。
- 水分調整:乾燥前の脱水効率が悪いと燃料化効率が下がるため、固液分離機の選定とメンテが重要。
- 初期投資の回収:補助金や共同出資モデル(複数牧場での原料供給)を活用して導入負担を平準化。
7. 他地域事例との比較(簡易)
全国的にも牛糞由来のバイオマス・バイオガス活用事例は増えています。規模や運用方法は多様で、下水汚泥を固形燃料にする自治体案件や企業の実証実験と比べると、牧場由来のモデルは原料の安定供給と地域還元(堆肥還元)が強みです。
8. まとめ
- 市の瀬牧場は牛糞尿を原料にメタン発酵を行い、発生したバイオガスで発電。残渣は脱水・乾燥して固形燃料(ペレット等)や堆肥に再利用している。
- 主な利点は温室効果ガス削減、悪臭・地下水汚染対策、 発電・堆肥販売による牧場収支の改善で、地域循環モデルとしての価値が高い。
- 成功の鍵は原料調整(固液分離)、発酵条件の安定管理(温度・攪拌)、脱水・乾燥工程の効率化、そして地域・自治体との連携や補助金活用。
- 課題として初期投資回収、臭気管理、運転安定性が挙げられるが、共同供給体制や補助制度と組み合わせた導入でハードルは低減可能。
- 他地域事例と比較すると、牧場由来モデルは原料の安定性と地域還元(堆肥)が強み。まずは小規模試験や周辺農家との原料連携で実運用を確認するのが現実的な第一歩。
牛糞の固形燃料化は「廃棄物処理」から「地域資源化」への転換です。技術だけでなく、牧場と地域、自治体の連携、運用ノウハウの蓄積が成功の鍵になります。市の瀬牧場の取り組みは、その好例として他地域への参考になり得ます。導入を検討するなら、まずは小規模の試験運転や周辺農家との原料連携を検討しましょう。
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当記事は一般向けの解説であり、設備導入の判断は必ず専門業者や自治体の担当窓口とご相談ください。