分娩直前の乾乳期に正しいDCAD(Dietary Cation-Anion Difference)管理を行えば、乳熱(低カルシウム血症)の発生率を大幅に下げられます。本記事ではDCADの基本概念と簡単な計算方法、陰イオン飼料の具体的な使い方、尿pHによるモニタリング手順まで、現場で即使える図表とチェックリストで分かりやすく解説します。
要点(3点)
- 結論:乾乳後期(分娩前約3週間)にDCADを目標レンジまで負にすることが乳熱予防の最も効果的な手段の一つである。
- 根拠:複数の実務ガイド・査読研究で、負のDCADが分娩後の血中Ca維持や乳熱発生率低下に寄与することが示されている。
- 行動:(1)飼料分析でNa/K/Cl/Sを把握、(2)DCADを計算し調整、(3)尿pHを5.7〜6.9で定期チェック。過度の酸性化は避ける。
1. DCADとは:理論と乳牛での意味
DCAD(Dietary Cation-Anion Difference)は、飼料中の主要陽イオン(Na⁺、K⁺)と主要陰イオン(Cl⁻、S²⁻)の差を示す栄養指標です。乳牛の周産期管理では、この数値がカルシウム代謝や酸塩基平衡に影響を与えるため、分娩前に意図的に負のDCADに調整することで乳熱の発生を抑制します。
なぜ負のDCADが乳熱予防に効くのか(要点)
- 負のDCADは軽度の代謝性アシドーシスを誘導し、骨や腸管からのカルシウム動員性を高める。
- 結果として分娩直後の血中カルシウム低下(乳熱)が起こりにくくなる。
- 適切な管理は泌乳・繁殖成績の改善にも寄与する。
2. 基本の計算式と実践的な計算例
一般的な簡易式は次の通りです(単位:mEq/100g DM)。
DCAD (mEq/100g DM) = (Na⁺ + K⁺) − (Cl⁻ + S²⁻)
計算例(実践)
| 成分 | 含量(% DM) | 備考 |
|---|---|---|
| Na | 0.10 | 例 |
| K | 1.50 | 例 |
| Cl | 0.30 | 例 |
| S | 0.20 | 例 |
この場合、分子および分母の原子量換算を用いてmEqへ換算すると、概算で約+25〜+30(正のDCAD)となり、泌乳期向けの配合であることが分かります。負にするには陰イオン塩の添加や低K粗飼料の活用が必要です。
3. 推奨DCAD値と給与期間
| ステージ | 推奨DCAD値 |
|---|---|
| 乾乳後期(クローズアップ期) | -10〜-15 mEq/100g DM(-50〜-150 mEq/kg DM) |
| 泌乳期 | +20〜+40 mEq/100g DM |
分娩前の約3週間(21日)以上を目安に負のDCADを給与することが多く、過長は避けます。具体的な数値と期間は現場の飼料分析と牛群の状態に合わせて調整してください。
4. 現場で使える陰イオン飼料と添加例
代表的な陰イオン源:
- 塩化アンモニウム(NH4Cl)
- 塩化カルシウム(CaCl2)
- 硫酸マグネシウム(MgSO4)
- 硫酸カルシウム(CaSO₄)
添加量は飼料の成分により変わるため、必ず飼料分析値を元に計算すること。嗜好性低下や過度のアシドーシスを招くリスクがあるため、少量から段階的に導入してください。
5. 尿pHによるモニタリング(現場で最も実用的)
DCAD効果の現場確認は尿pHが最も実践的です。目標レンジは
尿pH:5.7〜6.9
- 尿pHが目標より高い → DCADがまだ正または変化が不十分 → 陰イオン添加を検討
- 尿pHが目標より低い → 過度の代謝性アシドーシスのリスク → 添加量を減らす/中止して獣医と相談
尿pH測定はランダム採尿で可(出産前1〜2回/週を目安)。測定には市販の尿pH試験紙で十分実用的です。
6. リスクと注意点(現場での安全対策)
- 過度の陰イオン添加は食欲低下・代謝性アシドーシスを招き、逆に生産性低下を招くことがある。
- カルシウム補給とのバランス:負DCAD後に適切なCa補給(経口または投与)を組み合わせることで繁殖成績が向上する報告がある。
- 給与期間は個体差・群差があるため、必ず少数群で試験導入してから群全体へ展開する。
- 妊娠末期の他の栄養要因(エネルギー密度、蛋白バランス)も同時に管理すること。
7. 現場チェックリスト(分娩前:約3週間)
- 飼料分析を依頼(Na、K、Cl、Sを必須で測定)。
- 既存配合のDCADを計算(上記式を適用)。
- 陰イオン塩を少量導入し、尿pHを毎週測定。
- 尿pHが5.7〜6.9になったらその給与量を維持。
- 分娩後は速やかに泌乳期用の正のDCAD配合へ切替。
8. FAQ(よくある質問)
Q1. 負のDCADはどれくらいの牛群で試せばよい?
A:まずは乾乳群の中から10〜20頭の小群で試験導入し、尿pH・採食量・体調・分娩後の血中Caをモニターしてください。
Q2. 尿pHが低すぎた場合の即時対応は?
A:陰イオン塩の給与を減らすか中止し、獣医と相談の上で酸塩基補正(必要なら)を考慮します。急速な対処で食欲低下や代謝性アシドーシスを防ぎます。
9. まとめ(現場で今日からできること)
結論として、乾乳期のDCAD管理は乳熱予防とその後の泌乳・繁殖成績に明確な影響を与えます。まずは飼料分析に投資し、少数群で試験導入→尿pHによるモニタリング→必要時に陰イオン添加で微調整するという段階的なアプローチを推奨します。
今すぐできる3つの行動:
- 飼料分析(Na/K/Cl/S)を行う。
- DCADを計算し、分娩前約21日間で負のDCADに調整する計画を立てる。
- 尿pHを週1〜2回測定し、5.7〜6.9を目標に運用する。
参考・出典(一部)
- University of Wisconsin Extension — Negative DCAD diets(実務ガイド).
- DAIReXNET — Dietary Cation-Anion Difference for Dairy Rations(技術解説).
- Journal of Dairy Science — prepartum negative DCAD 論文(査読研究).
- ForageLab — 尿pHとDCADの実務指標.
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