ユッケやタルタルなど「牛肉の生肉」は独特の食感と風味が魅力ですが、食中毒リスクも伴います。本記事では、厚生労働省の生食用基準に基づき、部位別リスク、家庭でできる安全チェック、信頼できる購入先まで、酪農現場の視点を交えてわかりやすく解説します。安全に楽しむ具体的な手順を今すぐ確認しましょう。
1. 牛肉の「生肉」とは—日本の位置づけ
ここでいう「生肉(生食)」は、加熱せずに食べることを前提とした牛肉を指します。日本では2011年の大規模食中毒を受けて、厚生労働省が生食用食肉(牛肉)の規格基準を設け、基準を満たした加工・表示を行ったものだけが生食として扱えるようになりました。家庭で購入する際は必ず「生食用」などの表示を確認してください。

2. なぜ注意が必要か:主なリスクと実例
生肉で問題になる代表的な病原体は 腸管出血性大腸菌(EHEC/O157等)、カンピロバクター、サルモネラ などです。これらは重症化すると入院や合併症(HUSなど)を引き起こすことがあります。実際に、最近の事例ではレアステーキが原因となったO157による重篤な食中毒が報告されています。

腸管出血性大腸菌(EHEC/O157など)|少量でも重症化しやすい危険な菌
腸管出血性大腸菌(EHEC)は、牛の腸内などに存在する細菌で、加熱不十分な牛肉や生肉、または調理過程で二次汚染された食品を介して人に感染します。中でもO157は非常に少ない菌量でも発症するのが特徴です。
感染すると、激しい腹痛や血便、下痢などの症状が現れ、特に子どもや高齢者では溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こすことがあります。HUSは腎不全や意識障害を伴う重篤な合併症で、命に関わる場合もあります。
O157は肉の表面だけでなく、加工や調理の過程で内部に入り込むことがあるため、「表面を焼けば安全」とは言えません。中心部まで75℃で1分以上加熱することが、最も確実な予防策です。
カンピロバクター|「鶏肉の菌」だが牛肉や生食でも注意が必要
カンピロバクターは日本で最も多い食中毒原因菌の一つで、鶏肉のイメージが強いものの、牛肉や内臓肉、生肉料理でも感染例があります。少量の菌でも発症しやすく、冷蔵や冷凍では死滅しない点が特徴です。
主な症状は下痢、腹痛、発熱ですが、発症まで2〜5日ほどかかるため、原因食品に気づきにくいという問題があります。まれにギラン・バレー症候群と呼ばれる神経障害を引き起こすこともあり、軽視できません。
カンピロバクターは加熱に弱い一方で乾燥や低温に強いため、「新鮮だから安全」「少し焼いたから大丈夫」という考えは危険です。中心部まで十分に加熱すること、調理器具の使い分けが重要です。
サルモネラ|食肉・卵を中心に幅広く存在する代表的食中毒菌
サルモネラは牛肉、豚肉、鶏肉、卵など幅広い食品に存在する細菌で、生肉や加熱不足の肉料理を原因とする食中毒が多く報告されています。菌量が多いほど発症しやすく、夏場に増えやすいのも特徴です。
感染すると、発熱、腹痛、下痢、嘔吐などの症状が現れ、乳幼児や高齢者では重症化することがあります。脱水症状により入院が必要になるケースも少なくありません。
サルモネラは適切な加熱で死滅するため、肉類は十分に火を通すことが基本です。また、生肉を触った手や調理器具を介した二次汚染にも注意が必要で、調理後の手洗いや器具の洗浄・消毒が重要な予防策となります。

どの菌も中心温度75℃・1分以上の加熱が基本です。“751”と覚えると簡単です!
3. 日本の「生食用」基準(要点)
規格の要点を現場目線で整理します。
- 成分規格:腸内細菌科菌群が陰性であること。
- 加工・調理は専用設備・専用器具で行うこと(交差汚染の防止)。
- 表面から1cm以上の深さに対し、60℃で2分間以上の加熱殺菌等の処理を行う、または同等の衛生対策を行うこと(規格に準拠した加工プロセス)。
- 事業者側の衛生知識の習得が求められる。
※上記は規格の要旨です。事業者・加工業者は詳細な手続き・検査を実施しています。
4. 家庭でできる安全対策(具体的チェックリスト)
家庭で生肉を扱う場合の実務的なチェックリストです。必ず実行してください。
- 購入:必ず「生食用」と明示された製品を購入する(表示がないものは生食不可)。
- 受け取り:持ち帰ったらすぐ冷蔵(表示に従う)。店舗からの移動は短時間にする。
- 保管:原則短期間(当日〜翌日まで)で使用。密閉容器で、他の食品と分けて保管。
- 器具管理:生肉用のまな板・包丁を分け、使用後は熱湯や除菌で処理。
- 温度管理:調理前後とも極端な常温放置を避ける(冷蔵庫の通気と詰め込みに注意)。
- 提供相手:子ども・高齢者・妊婦・免疫抑制状態の人への提供は避ける。
- 疑わしい場合は加熱:変色・異臭・粘りがあれば廃棄または十分に加熱する。
5. 安全に食べるための具体的調理法(ユッケ・タルタル等)
ユッケ風(家庭向けの注意点)
- 必ず生食用に表示された赤身部位を使用する。
- 切るのは食べる直前に行い、手早く和える(長時間常温に放置しない)。
- 卵黄を使う場合は衛生管理が重要。卵も新鮮なものを選び、提供は自己責任で。

タルタルステーキ(ミンチにする場合の注意)
ミンチ化は表面にいた細菌が内部に混入するリスクが高まるため、自宅でのミンチは避けるか、信頼できる精肉店で加工してもらうのが安全です。

半生風(フォー等)
薄切り肉を熱いスープにくぐらせて表面をすぐに火入れする方法は、生に近い食感を残しつつリスクを減らせます。
6. 加熱温度の目安(規格と一般的なガイド)
規格では「表面から1cmの深さに対し60℃で2分以上の加熱」等が示されています。家庭での安全な加熱の目安としては、中心温度を75℃で1分以上確保することが推奨される場面もあります。用途に応じて適切に使い分けてください。
7. 部位別のリスク(実務メモ)
一般に内臓(特に肝臓)は寄生虫や細菌が入りやすく、牛レバーは生食用の提供が禁止されています。赤身部位でも表面汚染があるため、加工工程と検査が重要です。

8. 万が一の対応:食中毒が疑われたら
- 腹痛・下痢・血便・高熱などが出た場合、速やかに医療機関を受診してください。
- 食べた日時・場所・食品(購入店・ロットがわかれば記録)を保管すると、保健所の調査で役立ちます。
- 症状が重篤な場合は救急搬送を検討してください。
9. よくある質問(FAQ)
Q:スーパーの牛肉は生で食べられますか?
A:表示に「生食用」がない限り、生で食べることは避けてください。スーパーの多くは加熱前提の流通です。
Q:家庭で肉の表面を焼くだけで安全になりますか?
A:表面焼きは一定の殺菌効果がありますが、ミンチにした場合などは内部に汚染が行き渡るため、ケースバイケースです。安易な自己判断は避けましょう。
10.2026年の食中毒事例
2026年1月、山口県周防大島町の人気ハワイアンレストラン「アロハオレンジ」が提供したレアステーキ丼(通称:ギャング丼)を原因とみられる食中毒が発生しました。7人が腹痛・下痢などを訴え、3人から腸管出血性大腸菌O157が検出。うち10代の女性1人が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症し重症となっています。
11. まとめ
- 結論:「生食用」と明示された牛肉のみを選び、加工・器具・保存を徹底すればリスクを下げられるが、完全にゼロにはできない。脆弱者には提供しない。
- 根拠:規格基準、過去の食中毒事例、および公的ガイドラインに基づく。事業者側の検査・加工が前提である点を忘れないこと。
- 行動:購入時の表示確認、短期消費、器具の使い分け、温度管理を徹底する。疑わしければ加熱すること。
※重要な注意:本記事は公的基準・事例をわかりやすく解説したものであり、最終的な判断は各販売者の表示・加工ラベルおよび保健所の指示に従ってください。
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