酪農で安定した乳量と高品質な牛乳を生産するためには、飼料選びが非常に重要です。中でも「チモシー」は寒冷地での酪農に欠かせない基幹牧草で、消化性が高く栄養価も豊富。さらに自給飼料として飼料コストの削減にも貢献します。本記事では、北海道を中心とした現場でのチモシー栽培のポイントや品種選び、収穫・乾草化・放牧利用のコツまで、実践的な管理方法を草地・飼料生産学研究室に所属していた筆者が分かりやすく解説します。

消化性抜群!チモシーで牛も元気に育つ
チモシーとは――酪農に欠かせない基幹牧草
チモシー(学名: Phleum pratense L.、別名: オオアワガエリ)はイネ科の多年生牧草で、ヨーロッパやシベリア原産の寒地型種です。草丈は概ね80〜110cmの直立型で、耐寒性と永続性に優れ、低地力の土壌でも比較的よく育ちます。日本では特に北海道で乾草や放牧用に広く栽培され、自給飼料として酪農現場の基盤を支えています。

チモシーは酪農の基幹牧草!牛乳生産に欠かせない

チモシーの酪農上の主な利点
- 消化性が高く、泌乳牛の乳量・乳成分の安定に貢献。
- βカロチンやビタミン類が比較的豊富で、牛乳の栄養価アップに寄与。
- 自給飼料として輸入飼料依存を下げ、飼料コストの安定化に有効。
- 多年草のため、作付け管理(更新)を適切に行えば長期間利用可能。

チモシーで乳量安定!消化性が高く泌乳牛に最適
主要品種と選び方(北海道向けの例)
日本の実情に合わせた品種選択が重要です。以下は現場でよく使われるタイプの例です。
品種 | 特性 | 現場向けポイント |
---|---|---|
ユウセイ(極早生) | 1番草多収、WSC高め、再生力良 | 早期収穫で高栄養価の乾草を作りたい場合に◎ |
マオイ(早生) | 収量性・耐倒伏性良、混播適性高 | 混播や複数回収穫前提の畑に向く |
ホライズン(早生) | 耐寒性高、病害抵抗性あり | 寒冷地での放牧利用におすすめ |
シリウス(晩生) | 年間合計収量が多い | 長期収穫でトータル収量を重視する場合に有効 |
播種量の目安は約2.0〜2.5kg/10a(地域や目的により調整)。播種期は春(4月下旬〜5月中旬)または夏(8月上旬〜9月上旬)が一般的です。

ユウセイで高栄養乾草を早期収穫!乳量アップに◎
栽培の基本と管理ポイント
土壌と施肥
チモシーはpH5.8〜6.2が理想。元肥での窒素(N)の基底を確保し、追肥で生育を見ながら調整します。目安として元肥N200kg/haを参考にし、P・Kは土壌検査結果に合わせて最適化してください。
播種と混播
単播での栽培が多く、オーチャードグラスなどとの混播はチモシーの競合力が弱く衰退しやすい点に注意。混播する場合は比率や播種深さを工夫します。
出穂予測と収穫タイミング
出穂(穂が出る時期)を基準に早刈りすることで粗タンパクや可消化性を高く保てます。北海道などでは気温変動で出穂が早まるため、気象データを活用した出穂予測を取り入れると安定した品質確保に役立ちます。

出穂を基準に早刈り!粗タンパク・消化性を高く保つ
収穫・乾草化・サイレージ化の実務
チモシーは乾草(1番草の早刈り乾燥)やサイレージ(発酵飼料)として利用されます。乾草化では風通しと乾燥時間が品質を左右するため、適切な時期に迅速に乾燥させること。サイレージにする場合は水分管理(乾物値)と圧密が重要です。
乾草の品質チェックポイント
- 色:緑色が鮮やかであること(過乾燥や褐変は減点)
- 香り:生臭さや発酵臭がないか
- 葉茎比率:葉が多いほど栄養価が高い
米国産チモシー(USチモシー)の使い分け
輸入のUSチモシーは馬用と牛用グレードがあり、茎の太さや色で評価されます。現場では自給と輸入を組み合わせて安定供給・コスト管理する事例が多いです。

乾草チェックは色・香り・葉茎比率を確認
給餌での活用法と飼喂設計
チモシーは単体での粗飼料として有効ですが、稲わらやデントコーン等との配合でエネルギーとタンパクのバランスを取ります。放牧主体の場合は日内採食性(昼夜での採食量)を考慮した管理が重要です。
放牧での効果
研究では放牧利用で牛乳中のビタミンEやβカロチンが向上する報告があります。放牧を取り入れられる現場ではチモシー主体の草地管理で乳質改善が期待できます。

チモシーは粗飼料の基本!エネルギー・タンパクのバランス調整に最適
現場で出やすい課題と実践的な対策
- 夏枯れ:夏季高温乾燥で生育が低下。品種選定・灌水・更新で対処。
- 雑草混入:播種前の雑草管理と初期生育確保で抑制。
- 更新タイミング:通常4〜5年ごとに草地更新を検討。更新時は土壌改良と施肥を実行。
また、近隣農家との共同生産(機械共有や運搬・乾燥設備の共同利用)はコスト削減に非常に有効です。岡山などの事例では少数戸で大面積を効率的に管理しています。

チモシー更新は4〜5年ごと!土壌改良と施肥を忘れずに
短い事例:根釧地域の放牧利用から得た知見
根釧地域の研究事例では、チモシー主体の放牧で放牧草摂取量が12〜14.5kg/日、乳量や乳脂肪が良好に推移した記録があります。現場では品種選定・出穂予測・適切な放牧ローテーションが成功の鍵でした。

根釧地域の放牧で乳量・乳脂肪が安定!
現場で今すぐ使える実践チェックリスト
- 土壌検査を行いpHとP・Kを最適化する(年1回目安)。
- 播種前に圃場の雑草を確実に除去する。
- 出穂予測を基に早刈り計画を立てる(1番刈りは品質重視)。
- 乾草は短期間で乾燥させる。色と匂いを確認。サイロなら密封・圧密を徹底。
- 夏季は灌水や遮光・更新スケジュールで夏枯れ対策を行う。

出穂予測を基に早刈り計画!1番刈りは品質重視
参考と次の一歩
品種選びや土壌改良、出穂予測ツールについては、種苗会社や地方の農業試験場の資料を参照してください。まずは小面積で試験栽培して、現場データを蓄積することをおすすめします。

まずは小面積で試験栽培!現場データを蓄積
まとめ:チモシーを活かして持続可能な酪農へ
チモシーは寒冷地の酪農で強みを発揮する基幹牧草です。品種選定、出穂予測、適切な収穫・貯蔵を組み合わせることで、牛の健康維持と乳質向上、そして飼料コストの安定化が実現します。まずは圃場の現状把握と小さな実験から始め、徐々に生産面積と管理技術を広げていきましょう。

チモシーで寒冷地酪農を支える基幹牧草!
※本記事の情報は参考用です。土壌や気候条件、法令により適した管理方法が異なります。詳細は専門機関にご相談ください。
※本サイトで紹介している商品・サービス等の外部リンクには、アフィリエイト広告が含まれる場合があります。