明治HDが中国乳業事業を76億円で譲渡|牛乳・ヨーグルト撤退の背景と今後を解説

明治HDが中国の牛乳・ヨーグルト事業を約76億円で譲渡するニュースを解説したアイキャッチ画像 世界の酪農
スポンサーリンク

明治ホールディングスは2026年7月21日、中国で展開してきた牛乳・ヨーグルト事業およびBtoB事業を、上海澳雅食品有限公司へ譲渡すると発表しました。譲渡価額は3億2,000万元、日本円で約76億円です。取引は2026年12月31日の実行を予定しています。

今回の譲渡対象には、明治乳業(天津)有限公司や明治乳業(蘇州)有限公司などが含まれます。一方、明治食品(広州)有限公司は対象外となり、今後はカカオ事業の製造拠点として存続する予定です。そのため、今回の決定は明治が中国市場から完全撤退するものではなく、中国事業のポートフォリオを見直し、経営資源をカカオなどの注力分野へ集中する戦略といえます。

背景には、中国の牛乳・ヨーグルト市場における競争激化、消費者ニーズや販売チャネルの変化、原材料・物流コストの上昇などがあります。対象事業は2023年から2025年まで3年連続で営業赤字となっており、2025年12月期には売上高4億2,200万元に対して営業損失1億5,500万元を計上しました。

この記事では、明治HDが中国の乳業事業を譲渡する理由、約76億円という譲渡額、対象となる会社、譲受先のAustAsia Groupとの関係、そして今後の明治の中国事業とカカオ戦略について、公式発表をもとに詳しく解説します。

明治HDの中国乳業事業譲渡とは?

明治ホールディングスは2026年7月21日、中国で展開している牛乳・ヨーグルト事業およびBtoB事業について、上海澳雅食品有限公司へ譲渡することを決議しました。

明治HDが公表した資料によると、今回の取引は中国事業のポートフォリオを再構築し、経営資源を同社グループの注力領域であるカカオ事業などへ重点的に配分することが目的です。

つまり、今回の動きは単純な「中国撤退」ではありません。収益性や成長性を踏まえて乳業事業を切り離し、中国市場で今後も成長が期待できる分野へ経営資源を集中させる判断と見ることができます。

今回の譲渡のポイント

  • 発表日:2026年7月21日
  • 譲渡先:上海澳雅食品有限公司
  • 親会社:AustAsia Group Ltd.
  • 譲渡対象:中国の牛乳・ヨーグルト事業およびBtoB事業
  • 譲渡価額:3億2,000万元(約76億円)
  • 実行予定日:2026年12月31日
  • 今後も継続する事業:カカオ・チョコレート、アイスクリーム、栄養品など
明治おいしい牛乳が中国市場に本格参入するニュースイメージ
明治おいしい牛乳、中国市場でのパッケージ。

譲渡額は約76億円、実行日は2026年12月31日予定

今回の譲渡価額は3億2,000万元です。発表時点の換算で日本円では約76億円となります。

ただし、この金額が最終的な確定額になるとは限りません。株式譲渡契約に基づき、取引実行時の純資産などを踏まえて調整される予定です。

取引実行日は2026年12月31日が予定されていますが、関係当局の許認可など、契約で定められた前提条件を満たすことが条件となっています。

また、取引に先立って明治(中国)投資有限公司が対象事業を新設子会社へ移管し、その新設子会社の株式を譲渡する形が予定されています。

譲渡対象となる事業・会社

今回の取引では、中国における牛乳・ヨーグルト事業およびBtoB事業が譲渡対象となります。具体的には、明治(中国)投資有限公司の対象事業と、以下の2社が対象となります。

明治乳業(天津)有限公司

明治乳業(天津)有限公司は、中国・天津市に拠点を置き、牛乳やヨーグルトなどを製造している会社です。

同社の2025年12月期の売上高は1億3,100万元、営業利益はマイナス5,000万元でした。2023年の営業損失9,100万元から赤字が続いています。

明治乳業(蘇州)有限公司

明治乳業(蘇州)有限公司は、中国・江蘇省蘇州市に拠点を置き、牛乳、ヨーグルト、クリームなどの乳製品を製造しています。

2025年12月期の売上高は2億5,900万元、営業利益はマイナス1億元でした。2023年と2024年は営業黒字でしたが、2025年に赤字へ転じています。

これらの数字を見ると、今回の譲渡は中国乳業市場全体の低迷だけでなく、個別の製造拠点における収益性の悪化も背景にあることが分かります。

明治食品(広州)は譲渡対象外

今回のニュースで特に注意したいのが、明治食品(広州)有限公司です。

明治食品(広州)は今回の株式譲渡の対象には含まれません。対象事業に関する生産は取引実行前に終了する予定ですが、その後も明治(中国)投資有限公司の子会社として存続し、カカオ事業の製造拠点として運営される方針です。

この点からも、「明治が中国市場から完全撤退する」という表現は正確ではありません。

重要:今回譲渡されるのは中国の牛乳・ヨーグルト事業などであり、明治の中国事業全体ではありません。

中国乳業事業は3年連続の営業赤字

今回の譲渡を理解するうえで重要なのが、対象事業の業績推移です。

年度売上高営業利益
2023年12月期392百万元▲491百万元
2024年12月期403百万元▲144百万元
2025年12月期422百万元▲155百万元

売上高だけを見ると、2023年の3億9,200万元から2025年には4億2,200万元へ増加しています。

一方、営業利益は3年間すべてで赤字です。特に2023年は4億9,100万元の営業損失となり、その後は赤字幅が縮小したものの、2025年も1億5,500万元の営業損失を計上しました。

ここから分かるのは、「売上がまったく立たなかったから撤退する」という構図ではないことです。一定の売上規模を確保しながらも、競争やコストなどによって十分な利益を生み出すことが難しい事業構造になっていたと考えられます。

明治(中国)投資全体でも赤字が続く

対象事業だけでなく、明治(中国)投資有限公司全体でも2025年12月期の営業利益はマイナス10億4,000万元でした。

明治HDは2026年3月期までに中国関連事業で大きな損失を計上しており、中国事業の収益改善が重要な経営課題になっていました。

そのため、今回の事業譲渡は一時的なコスト削減ではなく、中国事業の収益構造そのものを見直す取り組みとして捉える必要があります。

なぜ明治は中国乳業事業を譲渡するのか

明治HDが公表した資料では、中国の牛乳・ヨーグルト市場で事業環境が大きく変化したことが理由として挙げられています。

1.消費者ニーズの多様化

中国の食品市場では、消費者の所得、生活スタイル、健康意識などの変化に伴い、食品に求められる価値も多様化しています。

従来のブランド力だけで市場シェアや利益を確保することが難しくなれば、商品開発やマーケティングへの追加投資が必要になります。

2.販売チャネルの変化

中国では実店舗だけでなく、ECやオンライン販売など販売チャネルが多様化しています。

販売網や物流体制を変化させるためには追加コストも必要となるため、既存の事業モデルとの適合性が重要になります。

3.競争環境の激化

中国の乳業市場では国内外の企業が競争しており、価格面でも厳しい環境が続いています。

価格競争が激しくなると、売上を維持できても利益率が低下する可能性があります。今回の対象事業で売上高が増加する一方、営業赤字が続いていたことは、この問題を考えるうえで重要です。

4.原材料・物流コストの上昇

乳製品は原料乳だけでなく、包装資材、エネルギー、冷蔵物流などさまざまなコストの影響を受けます。

特に牛乳やヨーグルトのようなチルド商品では、製造から販売までのコールドチェーンを維持する必要があります。原材料価格や物流費が上昇すると、価格転嫁が十分にできない場合、利益が圧迫されます。

5.新型コロナ以降の市場構造変化

新型コロナウイルス感染症を契機として、中国を含む世界の消費行動や販売チャネルは大きく変化しました。

明治HDはこうした事業環境の変化を踏まえ、中長期的な企業価値向上に向けて中国事業のポートフォリオを見直してきました。

譲受先AustAsia Groupとは?

今回の譲渡先である上海澳雅食品有限公司は、AustAsia Group Ltd.を親会社とする企業です。

AustAsia Groupはシンガポール法に基づいて設立され、香港証券取引所メインボードに上場しています。証券コードは2425です。

同社グループは中国で、乳牛の飼育や牧場運営、生乳の生産・販売、肉牛事業、飼料の加工・販売、乳製品の販売・流通など、酪農・畜産から食品流通まで幅広い事業を展開しています。

この事業領域の広さが、今回の譲渡を理解するうえで重要なポイントです。

明治とAustAsiaの間にある関係とシナジー

明治とAustAsiaは今回初めて関係を持つわけではありません。

明治グループはAustAsia Groupの株式15.85%を保有しており、両社には原材料調達などの取引関係があります。

そのため、今回の譲渡は完全に関係のない第三者へ事業を売却するケースとは異なります。

明治HDは、AustAsia Groupが持つ事業基盤との統合によって、原材料調達、製造効率、販売チャネル、工場操業度などでシナジーが期待できるとしています。

例えば、AustAsia側が持つ生乳生産や牧場などの上流事業と、明治が持っていた乳製品の製造・販売機能を組み合わせることで、乳業バリューチェーン全体の効率化につながる可能性があります。

明治にとっては採算改善が難しかった事業を譲渡し、AustAsia側にとっては生乳生産から乳製品製造・販売まで事業領域を広げる機会になります。

明治は中国から完全撤退するのか?

結論から言えば、今回の譲渡だけをもって明治が中国市場から完全撤退すると判断するのは適切ではありません。

譲渡されるのは牛乳・ヨーグルト事業およびBtoB事業です。一方で、明治食品(広州)は譲渡対象外となり、カカオ事業の製造拠点として存続する予定です。

また、明治グループは中国でチョコレートなどのカカオ関連事業、アイスクリーム、栄養品などの事業を継続します。

「中国撤退」ではなく「中国乳業事業の撤退」

正確には、中国における牛乳・ヨーグルト事業などを譲渡し、今後はカカオなどの注力分野へ経営資源を集中する戦略です。

今後の中国事業とカカオ戦略

今回の事業譲渡で明治HDが重視しているのが、カカオ事業などへの経営資源集中です。

明治HDは2026中期経営計画でも、成長事業への経営資源投入や事業ポートフォリオの最適化を重視しています。今回の中国乳業事業の譲渡は、こうした経営方針とも整合する動きと考えられます。

カカオ事業に経営資源を集中

明治にとってチョコレートは長年培ってきたブランド力や商品開発力を生かせる分野です。

2026年には「明治ミルクチョコレート」が発売100周年を迎えるなど、カカオ関連商品のブランド資産も大きな強みとなっています。

中国市場でも、乳製品事業と比較して競争優位性を発揮できる分野へ投資を集中することで、限られた経営資源をより効率的に使う狙いがあると考えられます。

2026年8月の第1四半期決算でも取引を確認

明治HDが2026年8月5日に公表した2027年3月期第1四半期決算資料では、7月21日に決議した中国乳業事業の譲渡が重要な後発事象として記載されています。

第1四半期決算時点では、今回の取引が連結業績に与える影響について精査中とされています。そのため、譲渡によって具体的にどの程度の利益改善が実現するのかについては、今後の決算発表を確認する必要があります。

今回の譲渡が乳業業界に与える意味

今回の明治HDの判断は、日本の乳業メーカーが海外市場で事業を展開する際の難しさを示す事例でもあります。

乳製品は日常的に消費される食品である一方、牛乳やヨーグルトは価格競争の影響を受けやすく、冷蔵物流や製造設備などの固定費も発生します。

海外市場では、現地企業が持つ原料調達力、販売網、物流網、消費者理解などが競争力を左右します。

今回、明治がAustAsiaを譲受先として選んだ背景には、同社が中国で生乳生産、牧場運営、飼料、乳製品販売などの事業基盤を持っていることがあります。

これは、乳業事業では「製品を作る技術」だけではなく、原料調達から製造、物流、販売までを含めたバリューチェーン全体の競争力が重要であることを示しています。

売上高だけでは事業の成否を判断できない

今回の対象事業は、2023年から2025年にかけて売上高が392百万元、403百万元、422百万元と増加しています。

しかし、営業利益は3年間連続して赤字でした。

この事例からも、海外事業を評価するときには売上規模だけでなく、営業利益、キャッシュ創出力、設備稼働率、物流コスト、販売チャネルなどを総合的に見る必要があります。

ヨーグルトの知的財産権やブランドはどうなる?

今回の取引では、ヨーグルト製品全般に関する知的財産権などがすべて譲渡されるわけではありません。

明治HDの発表では、ヨーグルト製品全般(乳酸菌を含む)に関する知的財産権等や一部ブランドは譲渡対象外とされています。

また、一部製品については商標使用許諾契約を締結する予定で、品質基準の遵守や監査権、重大な品質問題が発生した場合の解除権などを設ける方針です。

つまり、事業を譲渡して終わりという形ではなく、ブランドや品質に関する一定の管理を残すことで、消費者から見たブランド価値を維持する仕組みも検討されています。

専門家の視点で見る今回の事業譲渡

今回の明治HDの判断を評価するうえで重要なのは、「中国市場から逃げた」という単純な見方をしないことです。

企業経営では、売上規模の大きい事業を必ずしも維持することが最適とは限りません。資本や人材を投入しても十分な利益を生み出せない事業であれば、より高い成長性や収益性が期待できる分野へ経営資源を移すことも重要な選択肢です。

今回の対象事業は売上高自体は増加していたものの、営業赤字が継続していました。一方、譲受先のAustAsia Groupは中国で生乳生産や牧場、飼料、乳製品流通などの基盤を持っています。

そのため、明治側から見れば「採算改善に時間や資本を投じ続けるより、事業基盤との親和性が高い企業へ承継する」という選択になり、AustAsia側から見れば「上流の生乳事業から下流の乳製品製造・販売までバリューチェーンを広げる機会」となります。

今後注目すべきなのは、譲渡そのものではなく、その後に中国事業全体の収益性がどのように変化するかです。

まとめ|明治の中国撤退は「乳業事業の選択と集中」

明治ホールディングスは2026年7月21日、中国で展開する牛乳・ヨーグルト事業およびBtoB事業を上海澳雅食品有限公司へ譲渡すると発表しました。譲渡価額は3億2,000万元、約76億円で、2026年12月31日の取引実行を予定しています。

背景には、中国の乳製品市場における消費者ニーズや販売チャネルの変化、競争激化、原材料・物流コストの上昇などがありました。対象事業は2023~2025年の3年間連続で営業赤字となっており、2025年12月期には1億5,500万元の営業損失を計上しています。

一方で、明治が中国市場から完全撤退するわけではありません。明治食品(広州)は譲渡対象外となり、カカオ事業の製造拠点として存続する予定です。チョコレートなどのカカオ関連事業、アイスクリーム、栄養品なども継続されます。

今回の動きは、中国乳業事業から撤退する一方で、カカオなどの注力分野へ経営資源を集中する事業ポートフォリオ再構築と位置づけるのが適切です。

今後は、2026年12月の取引実行が予定どおり進むか、譲渡後に中国事業の収益性が改善するか、そして明治がカカオ事業を中国市場でどのように成長させるかが注目されます。

明治HDの中国乳業事業譲渡は、単なる海外事業からの撤退ではなく、変化する市場環境に合わせて経営資源を再配分する「選択と集中」の事例として、今後の食品・乳業業界を考えるうえでも重要な動きです。

参考・出典

  • 明治ホールディングス「中国事業のポートフォリオ再構築に伴う子会社株式の譲渡に関するお知らせ」
  • 明治ホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信・決算説明資料」
  • Reuters「明治HD、中国の乳製品事業を現地企業に売却 市場の変化で低迷」
  • 食品新聞「明治HD 中国の牛乳・ヨーグルト事業を譲渡 カカオなど成長分野へ資源集中」

※本記事は2026年8月22日時点で公表されている情報をもとに作成しています。譲渡取引は前提条件の充足を条件としており、今後の発表によって内容が変更される可能性があります。

この記事を書いた人

神奈川県横浜市の非農家に生まれる。実家では犬を飼っており、犬部のある神奈川県立相原高校畜産科学科に進学。同級生に牛部に誘われ、畜産部牛プロジェクトに入部。牛と出会う。

大学は北海道の酪農学園大学に進学。サークルの乳牛研究会にて会長を務める。ゼミでは草地・飼料生産学研究室に所属。

今年で酪農歴10年!現在は関西の牧場にて乳肉兼業農場の農場長として働いています。

【保有免許・資格・検定】普通自動車免許・大型特殊免許・牽引免許・フォークリフト・建設系機械・家畜商・家畜人工授精師・日本農業技術検定2級・2級認定牛削蹄師

みやむーをフォローする
スポンサーリンク
世界の酪農酪農NEWS
みやむーをフォローする
タイトルとURLをコピーしました