サイレージを開封したあと、「表面が熱くなっている」「いつもより臭いが強い」「カビが出てきた」と感じたことはありませんか。 こうしたトラブルの代表例が、サイレージの二次発酵(好気的変敗)です。
二次発酵は、サイレージが空気にさらされることで酵母などの好気性微生物が活動し、発熱や有機酸の消費、pH上昇、栄養成分の損失などを引き起こす現象です。 特に、開封後の取り出し面で空気が入り続ける状態や、取り出し速度が遅い状態では問題になりやすくなります。
この記事では、サイレージの二次発酵が起こる仕組みから、酪酸発酵との違い、発熱の見分け方、調製時の予防、開封後の取り出し方、発熱してしまった場合の対応、乳酸菌添加剤を使う際の考え方まで、現場で役立つポイントを整理します。
- サイレージの二次発酵(好気的変敗)とは?
- サイレージの二次発酵が起こるメカニズム
- 二次発酵と酪酸発酵の違い
- サイレージの二次発酵が起こる主な原因
- コーンサイレージは二次発酵に注意
- サイレージの二次発酵を防ぐ5つのポイント
- サイレージの正しい取り出し方
- 二次発酵しているサイレージの見分け方
- 二次発酵が起きると何が問題なのか?
- 発熱してしまったサイレージはどうする?
- プロピオン酸は二次発酵対策に使える?
- 乳酸菌添加剤で二次発酵を防げる?
- ホモ発酵型とヘテロ発酵型の違い
- 二次発酵を防ぐための現場チェックリスト
- サイレージの二次発酵に関するよくある質問
- まとめ|二次発酵対策は「空気を入れない・空気に触れさせない」が基本
- 参考資料・情報源
- この記事について
サイレージの二次発酵(好気的変敗)とは?
サイレージの二次発酵とは、厳密には好気的変敗(aerobic spoilage)と呼ばれる現象を、現場で「二次発酵」と表現したものです。 サイロ開封後などに酸素が入り込むと、サイレージ中に残っている酵母などが活動し、乳酸や糖などの栄養源を利用します。
その結果、サイレージの温度が上昇し、発酵産物が減少し、pHが上がり、さらにカビなどの好気性微生物が増殖しやすい環境になります。 つまり、「空気が入る → 酵母が活動する → 発熱する → さらに変敗しやすくなる」という悪循環が二次発酵の基本的な流れです。
農研機構の研究でも、開封後の好気条件で乳酸型サイレージの酵母が増殖し、乳酸の減少やpH上昇など、典型的な好気的変敗が起こることが報告されています。 また、低pHのサイレージに生育できる酵母が確認されており、サイレージが酸性だからといって、開封後の変敗を完全に防げるわけではありません。
サイレージの二次発酵が起こるメカニズム
1.開封や取り出しによって酸素が入る
サイレージは密封・嫌気状態を維持することで保存されています。 しかし、サイロを開封した時点から空気との接触が始まります。 特に問題になるのが、取り出し面が広い場合や、断面が凸凹して空気が入り込みやすい場合です。

2.酵母が乳酸や糖を利用する
酵母は酸素が存在する条件で、サイレージ中の栄養成分を利用して増殖します。 乳酸もその対象となるため、二次発酵が進むと乳酸が減少し、pHが上昇する方向に進みます。
3.発熱が始まる
酵母などによる好気的な代謝が進むと、その過程で熱が発生します。 そのため、二次発酵の初期には「カビはまだ見えないのに、触るとサイレージが温かい」という状態になることがあります。
4.カビなどが増殖しやすくなる
発熱やpH上昇が進行すると、さらに好気性の微生物が活動しやすくなります。 その結果、変色、異臭、カビの発生などにつながる場合があります。
ポイント: カビが目で見えるようになってから対処するのではなく、 「発熱」「断面の変化」「異臭」「取り出し後の温度上昇」などの早期サインを確認することが重要です。
二次発酵と酪酸発酵の違い
「サイレージの発酵異常」という点では似ていますが、二次発酵と酪酸発酵は同じものではありません。 原因となる微生物や、起こる条件が異なるため、対策も分けて考える必要があります。
| 項目 | 二次発酵(好気的変敗) | 酪酸発酵 |
|---|---|---|
| 主な条件 | 酸素がある | 嫌気条件 |
| 主な微生物 | 酵母、カビなど | 酪酸菌など |
| 発生しやすい場面 | 開封後、取り出し面、空気侵入部 | 調製時の発酵不良など |
| 特徴 | 発熱、栄養損失、カビなど | 酪酸臭、発酵品質低下など |
二次発酵を防ぐ場合は、特に「サイレージにどれだけ空気を入れないか」「開封後にどれだけ速やかに使うか」が重要になります。
サイレージの二次発酵が起こる主な原因
踏圧不足・密度不足
踏圧が不十分だとサイレージ内部に空気が残りやすくなります。 また、密度が低いサイレージでは開封後に酸素が内部へ侵入しやすくなります。 海外の酪農普及資料でも、十分な踏圧と密度確保は酸素排除と好気的安定性を高める重要な要素として説明されています。
水分が低すぎる
乾物率が高すぎる原料は踏圧しにくくなり、十分な密度を確保できない場合があります。 特にコーンサイレージでは、収穫時期が進みすぎたり乾きすぎたりすると、詰め込み時の空気排除が難しくなる可能性があります。
細断が粗い
原料が粗く、詰め込み時に十分な密度が出ない場合も、残存空気が増える要因になります。 ただし、細断長は作物の水分、穀実の状態、処理機械、給与体系などを考慮して設定する必要があり、「何mmなら必ず正解」と一律には決められません。
密封が遅い
刈取り・運搬・詰め込みを終えてから密封までに時間がかかるほど、酸素にさらされる時間が長くなります。 調製後はできるだけ速やかに密封し、外気の侵入を抑えることが基本です。
取り出し面が凸凹している
開封後の取り出し面が凸凹していると、空気に触れる面積が増え、局所的な空気侵入も起こりやすくなります。 そのため、サイレージの取り出し面はできるだけ平滑で垂直に近い状態を維持することが重要です。
取り出し速度が遅い
一日に取り出す量が少ないと、同じ断面が長時間空気にさらされることになります。 釧路農業改良普及センターでは、暖候期には1日20cm以上の取り出しを推奨する資料がある一方、別資料では30cm以上を目安として紹介しています。 実際の必要量は、サイロ形状、密度、季節、外気温、飼料給与量などを踏まえて決める必要があります。
高温・直射日光
暖かい時期は微生物の活動が進みやすくなるため、二次発酵が問題になりやすくなります。 さらに、取り出し面が直射日光にさらされると、変敗が進みやすくなるため注意が必要です。
コーンサイレージは二次発酵に注意
コーンサイレージは、開封後の好気的安定性が重要な飼料の一つです。 海外の大学普及資料では、コーンサイレージや高水分穀類は、空気にさらされた際の安定性が低下しやすい飼料として挙げられています。
また、Lactobacillus buchneri(L. buchneri)などのヘテロ発酵型乳酸菌を利用すると、酢酸生成などを介して酵母の増殖を抑え、開封後の好気的安定性を改善できることが報告されています。
ただし、乳酸菌添加剤は「入れれば二次発酵が必ず起こらない」というものではありません。 踏圧、密封、取り出し面の管理、取り出し速度などの基本管理が前提になります。
サイレージの二次発酵を防ぐ5つのポイント
1.収穫適期と適正な水分を意識する
原料作物に合った収穫適期を守り、水分が極端に高すぎたり低すぎたりしないように管理します。 特に低水分になりすぎると、踏圧が難しくなり、十分な密度が得られないことがあります。
2.十分な踏圧で空気を追い出す
二次発酵対策は開封後だけではありません。 サイロ詰め込み時に空気を十分に排除できているかどうかが、後の好気的安定性にも影響します。
3.できるだけ早く密封する
密封の目的は、サイレージを酸素から隔離して嫌気状態を維持することです。 シートの破れや隙間なども含めて、密封後の状態を確認することが大切です。
4.取り出し面をきれいに保つ
バケットを使用する場合は、下から大きくすくうのではなく、サイレージの断面を上から削り落とすように取り出す方法が推奨されています。 釧路農業改良普及センターも、断面からの酸素侵入を減らすため、サイレージカッターの利用やバケットの背面を使った取り出しを紹介しています。
5.必要な取り出し量を確保する
暖候期には、開封した断面を長時間残さないことが重要です。 目安として1日20cm以上、管理条件によっては30cm以上の取り出しを検討します。 ただし、数字だけを守るのではなく、実際に断面で発熱が起きていないかを確認しながら調整することが重要です。
サイレージの正しい取り出し方
バケットで取り出す場合
できるだけ断面を平らに保ちながら、上から下へ削るように取り出します。 下から深くすくってしまうと断面に凹凸ができ、空気の侵入を増やす原因になります。
- 断面をできるだけ平らにする
- バケットを深く突っ込まない
- 上から削り落とす
- 取り出したサイレージを長時間放置しない
- 作業終了後は必要に応じて断面を覆う
サイレージカッターを使用する場合
サイレージカッターなど、断面をきれいに切り出せる機械を使用すると、断面の凹凸を抑えやすくなります。 取り出し面をきれいに維持することは、空気との接触を抑えるうえで重要です。
二次発酵しているサイレージの見分け方
二次発酵は、必ずしも最初からカビが見えるわけではありません。 以下のような変化が複数見られる場合は、好気的変敗を疑います。
- サイレージの温度が周囲より明らかに高い
- 断面から時間が経つと発熱してくる
- アルコール様の臭いが強くなる
- 色が変化する
- 表面や内部にカビが見える
- 以前より嗜好性が落ちたように感じる
- 取り出し面の特定部分だけが熱くなる
温度は重要な管理指標ですが、手で触れただけでは微妙な変化を見逃すことがあります。 可能であれば温度計を使い、周囲の気温や未変敗部分との比較で管理すると、異常の早期発見に役立ちます。
二次発酵が起きると何が問題なのか?
乾物・栄養成分の損失
好気的微生物がサイレージ中の栄養成分を利用すると、乾物損失が進みます。 特に開封後に空気が入り続けることで、保存してきた飼料価値が徐々に失われます。
嗜好性の低下
発熱や異臭、変敗が進んだサイレージは、牛が食べにくくなることがあります。 二次発酵がTMRにまで影響すると、飼料摂取量の低下につながる可能性があります。
カビ・カビ毒への注意
好気的変敗が進むと、カビが発生する場合があります。 ただし、「二次発酵したサイレージ=必ずカビ毒が発生する」という意味ではありません。 一方で、目視できるカビがある飼料については、家畜への給与を安易に判断せず、汚染状況や飼料全体の品質を確認する必要があります。
経済的損失
廃棄量の増加だけでなく、飼料設計の変更、購入飼料の増加、生産性の低下など、二次的な損失も考える必要があります。 サイレージは収穫・運搬・調製にコストがかかるため、開封後の管理不良によるロスは経営面でも無視できません。
発熱してしまったサイレージはどうする?
すでに広い範囲で発熱している場合は、「そのまま使い続ける」のではなく、まず変敗範囲を確認します。 釧路農業改良普及センターでは、広範囲に発熱している場合、熱が落ち着くところまで断面を削り、取り出したサイレージをサイロ外へ廃棄する対応を示しています。
基本的な対応
- 発熱している範囲を確認する
- 変敗部分を健康なサイレージから分離する
- 必要に応じて変敗部分を廃棄する
- 取り出し速度を見直す
- 断面を平滑に整える
- シートなどを利用して酸素接触をできるだけ減らす
注意: カビが大量に発生している飼料や、明らかに異常な臭い・変色・腐敗がある飼料を、 「もったいないから」という理由だけで乳牛に給与するのは避けるべきです。 給与可否について判断に迷う場合は、飼料分析や獣医師・飼料担当者・普及指導機関などへの相談をおすすめします。
プロピオン酸は二次発酵対策に使える?
プロピオン酸は、酵母やカビなどの増殖抑制を目的として、サイレージの二次発酵対策に利用されることがあります。 釧路農業改良普及センターでも、サイロ断面へのプロピオン酸散布を対策の一つとして紹介しています。
ただし、プロピオン酸は酸性物質であり、取り扱いを誤ると危険です。 使用する場合は、必ず製品の表示・使用方法・希釈倍率・防護具などを確認し、適正に使用してください。
また、プロピオン酸による対策は「空気が入る」という根本原因を解決するものではありません。 踏圧、密封、断面管理、取り出し速度の改善と組み合わせて考えることが重要です。
乳酸菌添加剤で二次発酵を防げる?
サイレージ用乳酸菌には、主に乳酸生成を促して発酵を安定させるタイプと、好気的安定性の向上を狙うタイプがあります。
ヘテロ発酵型乳酸菌
代表的な菌として知られているのがLactobacillus buchneriです。 この菌はヘテロ発酵型乳酸菌で、乳酸や糖などから酢酸などを生成します。 酢酸は特定の酵母の増殖を抑制する方向に働くため、開封後の好気的安定性を高めることが報告されています。
海外の研究レビューでも、L. buchneriを添加したコーンサイレージなどでは、酵母の増殖抑制と好気的安定性の改善が示されています。
日本国内でも、コーンサイレージ・ソルガムサイレージ向けに、二次発酵防止を目的としたサイレージ用乳酸菌製品が販売されています。 ただし、製品によって対象作物、菌株、使用量、使用条件が異なるため、製品表示を確認して選択する必要があります。
ホモ発酵型とヘテロ発酵型の違い
| 項目 | ホモ発酵型 | ヘテロ発酵型 |
|---|---|---|
| 主な特徴 | 乳酸を効率的に生成 | 乳酸に加えて酢酸などを生成 |
| 主な目的 | pH低下・発酵促進 | 好気的安定性の改善 |
| 代表例 | Lactiplantibacillus plantarumなど | Lactobacillus buchneriなど |
どちらが優れているという単純な話ではありません。 「何を改善したいのか」を決めたうえで菌株や資材を選択することが重要です。
二次発酵を防ぐための現場チェックリスト
サイロ詰め込み時
- 原料の水分は適切か
- 細断が粗すぎないか
- 十分な踏圧ができているか
- 詰め込みを長時間放置していないか
- 密封を速やかに行っているか
開封後
- 取り出し面が平らになっているか
- 断面に凸凹がないか
- 下からすくうような取り出し方になっていないか
- 必要な取り出し量を確保できているか
- 直射日光が当たっていないか
- 断面を長時間露出させていないか
- 発熱している部分がないか
サイレージの二次発酵に関するよくある質問
Q1.二次発酵とカビは同じですか?
同じではありません。 二次発酵は好気条件で酵母などが活動して発熱・変敗する現象を指します。 その後にカビが増殖する場合がありますが、二次発酵の初期から必ずカビが見えるわけではありません。
Q2.サイレージが少し温かいだけなら問題ないですか?
温度上昇は好気的変敗の重要なサインです。 周囲の温度や正常な部分と比較して明らかに高い場合は、原因を調べることをおすすめします。
Q3.夏だけ二次発酵対策をすればいいですか?
夏場は特に注意が必要ですが、冬でも二次発酵が起こらないとは限りません。 踏圧不足、密封不良、取り出し面の管理不良などがあれば、季節を問わず問題になります。
Q4.乳酸菌を入れれば二次発酵は防げますか?
乳酸菌添加によって好気的安定性が改善する場合はありますが、添加だけで全ての問題を解決できるわけではありません。 調製・密封・踏圧・取り出しの管理が基本です。
Q5.発熱した部分だけ取り除けば使えますか?
発熱範囲やカビの発生状況などによって判断が異なります。 明らかな変敗飼料や大量のカビがある場合は安易に給与せず、必要に応じて飼料分析や専門家への相談を行ってください。
まとめ|二次発酵対策は「空気を入れない・空気に触れさせない」が基本
サイレージの二次発酵は、開封後に酸素が入り、酵母などの好気性微生物が活動することで起こる好気的変敗です。 発熱、乳酸などの有機酸の減少、pH上昇、乾物・栄養成分の損失、カビの発生などにつながる可能性があります。
防止の基本は、調製時にできるだけ空気を排除することと、 開封後にサイレージをできるだけ空気にさらさないことです。
特に重要なのは、十分な踏圧、速やかな密封、平滑な取り出し面、適切な取り出し速度です。 暖候期は取り出し面の管理をより厳しくし、発熱がないかを日常的に確認するとよいでしょう。
また、Lactobacillus buchneriなどのヘテロ発酵型乳酸菌を利用する方法も、コーンサイレージなどの好気的安定性を高める選択肢の一つです。 ただし、添加剤は基本管理の代わりではなく、調製・保存・取り出し管理を補完するものとして考えることが重要です。
良質なサイレージを無駄なく乳牛へ給与するためには、「発熱してから対処する」のではなく、 サイロ調製の段階から、開封後の取り出しまで一貫して空気を管理することが最大のポイントです。
参考資料・情報源
- 農研機構「野外サイレージの発酵品質と好気的変敗」
- 北海道 釧路総合振興局・釧路農業改良普及センター「サイレージの二次発酵に注意!」
- 北海道 釧路総合振興局・釧路農業改良普及センター「サイレージを二次発酵から守る」
- 北海道 釧路総合振興局・釧路農業改良普及センター「良質なサイレージの作り方」
- University of Wisconsin-Madison Extension「Summer feed storage and feed bunk management」
- University of Wisconsin-Madison Extension「Lactobacillus buchneri for silage aerobic stability」
- 雪印種苗株式会社「サイレージ用資材」
この記事について
本記事は、サイレージの発酵・保存管理に関する公的機関、研究機関、大学普及資料などをもとに、 酪農現場で利用しやすい形に整理しています。
飼料の給与可否やカビ毒など、個別の牛群管理に関わる判断については、 実際のサイレージ分析値、給与量、牛群の状態などを確認したうえで、 獣医師、飼料分析機関、普及指導機関などの専門家へ相談してください。



