乳牛のPTH(副甲状腺ホルモン)と乳熱対策|DCADでPTH反応を高める現場ガイド

乳牛の乳熱対策をPTHとDCAD管理で解説した図解アイキャッチ画像 疾病
PTHとDCAD管理で乳牛の乳熱を防ぐ現場実践ガイド
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分娩直後、初乳へ大量のカルシウムが移行することで血中Caが急低下しやすく、乳熱(低カルシウム血症)が発生します。本記事では血中Caを調節する中枢ホルモンであるPTH(副甲状腺ホルモン)の作用機序を専門家視点で丁寧に解説し、DCADによる予防、尿pHの実測管理、臨床対応(IVカルシウム等)まで現場で即使える具体手順を示します。治療は必ず獣医師と連携してください。

要点

  1. PTHは腸管吸収(活性型ビタミンD増加)、腎によるCa再吸収・リン排泄、骨からのCa放出という3経路で血中Caを回復する主役です。
  2. 分娩直後の急激なCa需要に対してPTHの骨動員はタイムラグがあるため、乾乳後期のDCAD管理でPTH受容性を高めることが最も有効
  3. 臨床発症時はIVカルシウム(例:23%カルシウムグルコン酸500 mL等)が即効性を持つ標準的治療で、その後の経口補給で再発を抑えます。必ず獣医師指示の下で行ってください。

PTHの作用機序(現場で押さえるべきポイント)

1) 腸管:ビタミンD活性化を通じてCa吸収を上げる

PTHは腎での1α-ヒドロキシラーゼを刺激して活性型ビタミンD(1,25(OH)2D)を増やし、これが小腸でのカルシウム吸収を促進します。現場では「ビタミンDの作用が効くかどうか」=腸管からの吸収が追いつくかが重要です。

2) 腎臓:Caの再吸収を高め、リンを排泄してCaバランスを整える

腎での再吸収促進により尿中へのCa喪失を抑えます。同時にリン排泄が増えることで血中Caの利用が促進されます(現場的には血液検査でCaとPを両方見ること)。

3) 骨:破骨細胞を介した骨吸収でCaを供給(ただしタイムラグあり)

PTHは骨代謝を刺激して骨中の可動Caを血中に移行させますが、この過程には時間がかかる(数日単位の反応)ため、分娩直後の急速なCa需要には単独では間に合わないことがポイントです。

なぜ乳熱が起こるのか — PTHの視点から

分娩直後は乳汁へ大量のCaが移行します。PTHが分泌されても、腸吸収の立ち上がりや骨からの動員のタイムラグ、あるいはPTH受容体の反応性低下(乾乳期のアルカローシスや高K飼料の影響)により、血中Caが急降下してしまうと乳熱を生じます。臨床型だけでなく、症状の見られない「潜在性(subclinical)低Ca」も生産性・繁殖成績に悪影響を与えます。

現場で使える予防法(ステップバイステップ)

ステップ1:乾乳後期に負のDCADを導入する(狙い:PTH反応性を高める)

目安としてはDCADを0〜−100 mEq/kg DM程度に調整し、群の平均尿pHをHolsteinで6.0〜7.0(理想は約6.2〜6.8)にすることが多くの研究で推奨されています。尿pHが6.0未満は過度の酸化を示すため注意が必要です(品種差あり)。

項目目標・目安
DCAD(mEq/kg DM)0 〜 −100(運用は栄養士判断)
尿pH(Holstein)6.0 〜 7.0(理想 6.2〜6.8)
尿pH(Jersey)5.5 〜 6.5

注:DCADは(Na + K) − (Cl + S) 等式で算出されます。飼料中のK含量が高いとDCADが陽性に偏りやすいので、飼料選定とミネラル調整が重要です。

ステップ2:尿pHで効果をモニタリング

クローズアップ群から数頭の尿を採取して週1回程度測定します。複数頭の平均をとり、極端値を除外して群としての傾向を確認してください。尿pHが目標範囲外ならDCADを再調整します。

ステップ3:分娩時の当日対応と再発予防

  • 臨床症状(立てない、筋力低下、よだれ、低体温)を呈した牛は速やかに獣医へ連絡。臨床例ではIVカルシウムが第一選択です。
  • IV治療後は経口カルシウムを12時間間隔で2回等、再発防止のための経口補給を行う場合が多い(獣医指示に従う)。
  • 臨床は見られないが血清Caが低い「潜在性低Ca」は生産性低下に繋がるため、群管理での予防が重要。
酢酸カルシウム溶液が入った透明なプラスチックボトルとラベル表示
酢酸カルシウム溶液入りのボトル容器

治療プロトコル(現場の標準例)

下記は一般的手順の例です。必ず獣医師の判断・投与量指示に従ってください。

  1. 臨床乳熱(重篤):23%カルシウムグルコン酸500 mLを静脈内緩徐投与(心刺激に注意)。反応を確認する。
  2. 反応が見られたら、12時間後に経口カルシウムボーラスを2回投与する等で再発を抑える(商品や投与法は獣医に確認)。
  3. 反応が乏しい場合は獣医による追加検査(血中Ca・リン・マグネシウム)と処置を行う。

現場でよくあるQ&A(簡潔回答)

Q. 乾乳期にカルシウムを増やせば防げますか?

A. 単純に飼料カルシウムを増やすだけでは不十分。分娩時のCa動員はホルモン(PTH)の反応性が鍵で、DCAD調整の方が効果的です。

Q. 尿pHだけ見れば大丈夫ですか?

A. 尿pHは群の酸化状態を簡便に把握する優れた指標ですが、個体差や採取時刻の影響もあるため定期測定と群平均で判断してください。

データで示す価値(短いエビデンス)

近年のレビュー・疫学研究では、臨床および潜在性低Caの発生が繁殖成績・早期乳房炎・離乳成績に影響するという報告が相次いでいます。群での予防管理(DCAD・尿pHモニタリング)により臨床発生率を大幅に下げられるエビデンスがあります。

チェックリスト — 今すぐ実行できること

  • 乾乳後期の飼料成分(特にK, Na, Cl, S)を確認し、栄養士とDCADを算出する。
  • クローズアップ群から毎週数頭の尿pHを測定し、群平均を管理する(目標 Holstein 6.0–7.0)。
  • 分娩期の初動対応プロトコル(獣医連絡先、IVカルシウムの準備、経口ボーラスの手配)を明文化して厩舎に掲示する。
  • 分娩後3日以内の高リスク牛(高齢・高泌乳)を優先的にモニタリングする。

まとめ

PTHは乳牛の血中カルシウム維持に不可欠ですが、分娩直後の急激なCa需要に対してはPTH単独では間に合わないことが多いです。したがって現場対策の中心は、乾乳期のDCAD管理でPTH受容性を高めることと、尿pHによるモニタリング、臨床時の速やかなIVカルシウム治療です。群管理と獣医連携が乳熱による損失を最小化します。

重要:本記事は公表された文献・獣医・畜産学の知見に基づいて作成していますが、具体的な飼養管理・治療は各農場の状況や獣医師の診断に従ってください。

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この記事を書いた人

神奈川県横浜市の非農家に生まれる。実家では犬を飼っており、犬部のある神奈川県立相原高校畜産科学科に進学。同級生に牛部に誘われ、畜産部牛プロジェクトに入部。牛と出会う。

大学は北海道の酪農学園大学に進学。サークルの乳牛研究会にて会長を務める。ゼミでは草地・飼料生産学研究室に所属。

今年で酪農歴10年!現在は関西の牧場にて乳肉兼業農場の農場長として働いています。

【保有免許・資格・検定】普通自動車免許・大型特殊免許・牽引免許・フォークリフト・建設系機械・家畜商・家畜人工授精師・日本農業技術検定2級・2級認定牛削蹄師

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