牧場経営で最も頭を悩ませる疾病のひとつが乳房炎です。なかでも最近注目されるのが、皮膚常在菌として知られるCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)と、その一種である環境性ブドウ球菌。本記事では、
- なぜ乳房炎が起こるのか
- CNS・環境性ブドウ球菌とは何か
- 月1回のバルク乳検査を活用した見える化
- 初心者でも実践できる予防・対策ポイント
を、解説します。

牛さん
見落としがちな乳房炎、実はCNSが犯人かも

1. 乳房炎とは?原因と経済的影響
乳房炎は、乳房内に細菌が侵入し炎症を起こす疾病で、主に以下のような損失を招きます。
- 乳量の低下:乳房炎が進行すると平均で乳量が10~20%減少すると報告されています。
- 乳質の低下:体細胞数(SCC)の上昇により、乳製品の品質評価が下がるリスク。
- 治療コストの増加:抗菌薬・検査費用・廃棄乳による損失。
- 淘汰リスクの上昇:慢性化すると淘汰対象となり、更新コストもかさみます。
日本では2021年時点で乳牛疾病全体の約31%が乳房炎に関連しているとされ、酪農経営の大きなボトルネックです。

牛さん
「SCC(体細胞数)上がると、牛乳の評価もガタ落ち…
2. CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)と環境性ブドウ球菌の違い
項目 | CNS | 環境性ブドウ球菌 |
---|---|---|
定義 | コアグラーゼ陰性のブドウ球菌の総称 | CNSの一種で、環境中に広く分布 |
存在場所 | 牛・人の皮膚常在菌 | 敷料・床・糞便など |
感染経路 | 乳頭口からの侵入 | 汚染環境からの侵入 |
感染形態 | 潜在性(サブクリニカル)が多い | 潜在性・臨床型ともに |
治療の難易度 | 抗菌薬耐性株が増加 | 早期発見が難しく、拡大しやすい |
- CNS(Staphylococcus epidermidis など)
皮膚の常在菌ですが、乳頭口を介して侵入し、主に潜在性乳房炎を引き起こします。体細胞数の定期測定で検出されやすく、慢性化すると乳質低下が顕著に。 - 環境性ブドウ球菌(Staphylococcus chromogenes 等)
敷料や床など汚染された環境に多く存在。牛の免疫力が低下したタイミングで感染リスクが跳ね上がり、サブクリニカルだけでなく臨床型へ移行することもあります。

牛さん
環境性ブドウ球菌は床や敷料の汚れが原因に…!
3. 月1回のバルク乳検査がもたらすメリット
- 群レベルの早期警戒:個体検査に比べコストを抑えながら、群全体のSCCや菌種分布のトレンドを把握。
- 定期化による習慣化:牧場では月に1回をルーティン化。結果を3ヵ月分並べてグラフ化することで、微小な変動も見逃しません。
- 対策のフィードバック:検査結果に応じて、牛床の乾燥強化や搾乳手技の見直しを即時に実行可能。
POINT:バルク乳検査は「検査して終わり」ではなく、結果を現場改善に結びつけることが真の価値です。

牛さん
搾乳クルーの意識も変わった気がする

4. 症状の見分け方と診断方法
型 | 症状 | 検査方法 |
---|---|---|
臨床型乳房炎 | 乳房の腫れ・熱感・乳汁の変化・全身症状 | 目視・触診・乳汁培養 |
サブクリニカル | 症状なし | SCC測定・乳汁細菌培養検査 |
- SCC(体細胞数):目安は200~300万 cells/mL 以下。超過すると要注意。
- 乳汁細菌培養:CNSや環境性菌を同定し、感受性試験を実施。

牛さん
どの菌が悪さしてるか、培養でハッキリする!
5. 治療法と耐性菌への対応
- 抗菌薬投与
- 感受性試験に基づく薬剤選択が必須。
- CNSは多剤耐性を示す株もあり、乾乳期治療や全身投与も検討。
- 記録管理
- 投薬履歴をデータベース化し、耐性パターンを分析。
- 次回投与時の判断材料として活用。
- 国際ガイドライン準拠
- IDF(国際酪農連盟)の抗菌薬適正使用ガイドラインを参照し、過剰投与を回避。

牛さん
CNSの耐性株には乾乳期の治療も検討が必要
6. 現場でできる予防・対策ポイント
- 搾乳衛生の徹底
- プレ・ポストディップで乳頭を確実に消毒。
- 感染牛は最後に搾乳し、クロスコンタミネーションを防止。
- 牛舎環境の改善
- 敷料交換を定期化し、湿気を抑制。
- 牛床の清掃・換気を強化し、有害菌の増殖を抑える。
- 栄養・ストレス管理
- 免疫力向上を狙い、適切なミネラル・ビタミン補給。
- 群管理で不要なストレスを軽減。
- データ活用
- 月1回のバルク乳検査結果をグラフ化し、異常を視覚化。
- 畜群管理ソフトとの連携で、継続的なモニタリングを実現。

牛さん
感染牛は最後に搾乳して菌の拡散防止
7. まとめと次の一歩
乳房炎の予防・対策で最も重要なのは、**「継続したモニタリング」と「結果を踏まえた現場改善」**です。CNSや環境性ブドウ球菌はサブクリニカルが多いため、月1回のバルク乳検査をルーティン化し、データをもとに現場アクションを取ることが、乳質向上とコスト削減につながります。
- 月1回のバルク乳検査で群の状況を把握
- 畜群管理ソフトと連携し、SCC・菌種変動を可視化
- 搾乳衛生と環境整備を両輪で実践
これらを実行すれば、乳房炎による経済的損失を劇的に低減できるはずです。ぜひ今日から、あなたの牧場でも乳房炎対策を始めてみてください!

牛さん
搾乳衛生と牛舎環境整備は両輪で実践!
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