この記事では、繁殖・給餌・生産管理・衛生管理など、酪農現場で頻出する略称をアルファベット順に網羅的に解説します。

これで酪農現場で使われる略語がすべて分かる!
A
AI
Artificial Insemination(人工授精)
獣医師または家畜人工授精師が凍結精液を用いて子牛を生産する繁殖技術です。メリットとして、雄牛飼養コストの削減や品種改良の加速が挙げられます。
B
BCS
Body Condition Score(ボディコンディションスコア)
乳牛の体脂肪蓄積状態を1.0(極度痩せ)~5.0(過肥)で評価する指標で、健康管理や繁殖管理に活用されます
BSE
Bovine Spongiform Encephalopathy(牛海綿状脳症)
異常プリオン蛋白質による神経変性疾患で、1992年に世界的な発生ピークを迎え、日本では2002年以降発生がなく、「無視できるリスク国」と認定されています。
C
CP
Crude Protein(粗たんぱく)
飼料中の窒素含量に6.25を乗じた値で、タンパク質総量を示す指標です。
D
DHI
Dairy Herd Improvement(乳牛群改良検定)
乳牛群の生産性や繁殖成績を統計的に検定・記録する制度で、成績向上や管理改善に役立ちます。
DM
Dry Matter(乾物)
飼料中の水分を除いた固形分で、栄養成分評価の基礎となります。
DMI
Dry Matter Intake(乾物摂取量)
牛が一日に摂取する乾物の重量で、栄養設計や飼養管理の重要指標です。
DIM
Days In Milk(授乳日数)
授乳期間中の経過日数で、乳量管理や搾乳ピッチの最適化に利用されます。
DO
Days Open(空胎日数)
分娩後から次回受胎までの期間日数で、繁殖管理の効率指標となります。
E
ECM
Energy Corrected Milk(エネルギー補正乳量)
乳量を3.5%脂肪・3.2%蛋白質基準に換算した指標で、成分差を含めた生産性評価に用います。
ET
Embryo Transfer(受精卵移植)
体内または体外で得た受精卵を受胎牛に移植し、繁殖効率や品種改良を図る技術です。
酪農では和牛の生産にETが使われます。
F
FCM
Fat Corrected Milk(脂肪補正乳量)
乳量を脂肪率4%基準に換算した値で、牛乳のエネルギー生産量を比較する際に用います。
G
GAP
Good Agricultural Practices(適正農業規範)
食品安全、環境保全、労働安全など持続可能性を確保する生産工程管理の取り組みです。
GnRH

I
IVF
IVF(In Vitro Fertilization)
IVFとは「体外受精」のことで、雌牛から採取した卵子と雄牛の精子を体外で受精させて、受精卵をつくる技術です。これは、OPU(卵子採取技術)と組み合わせて活用されることが多く、酪農においては遺伝的に優れた牛を効率よく増やすための先進的な繁殖技術として注目されています。
IVFで作られた受精卵は、別の代理母牛に移植することで妊娠・分娩が可能になります。これにより、優秀な雌牛が年に何頭も「子牛を産む」ような感覚で遺伝子を残せるようになるため、短期間での群全体の改良や、希少な血統の保存などに大きく貢献しています。

L
LL牛乳
ロングライフ牛乳
UHT(超高温瞬間殺菌)処理を施すことで、長期間保存が可能な牛乳です。通常の牛乳は冷蔵保存が必要ですが、ロングライフ牛乳は、開封しなければ常温で数ヶ月間保存できます。これは非常に便利で、特に災害時や緊急時の備蓄に最適です。
【関連記事】ロングライフ牛乳(LL牛乳)とは?常温保存できる理由を徹底解説
M
MUN
Milk Urea Nitrogen(乳中尿素窒素)
乳中の尿素窒素濃度指標で、飼料中のタンパク質-エネルギーバランスや牛の栄養状態把握に活用されます。
N
NDF
Neutral Detergent Fiber(中性洗浄繊維)
セルロース・ヘミセルロース・リグニンを含む飼料中の総細胞壁画分で、ルーメンでの通過性・摂取量に影響します。
O
OPU
OPU(Ovum Pick‑Up)
OPU(Oocyte Pick Up)は、酪農業において雌牛の卵子を採取し、受精卵を作成する技術です。この技術は、繁殖管理を効率化し、遺伝的改善を促進するために活用されています。OPUは、通常、繁殖に使うための卵子を採取するために特別な器具と技術を使用して行います。
OPUのメリットは、優れた遺伝的特性を持つ牛を増やすことができ、また、繁殖効率を高める点です。特に、繁殖における時間やコストの削減に貢献します。しかし、技術や設備が必要であり、専門的な知識と経験が求められるため、導入には慎重な計画が必要です。
具体的には、雌牛に卵巣刺激を行い、発育した卵胞から卵子を採取します。これにより、1頭の牛から複数の卵子を採取することができ、受精卵を作成して他の雌牛に移植することができます。これにより、優れた遺伝子を広範囲に拡大することが可能になります。

S
SA
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus=SA)
- 伝染性が高い:搾乳時の手・洗布・搾乳具を介して牛⇄牛で感染が拡大
- 臨床性/亜臨床性:
- 臨床性…乳房の腫脹・痛み・血性乳汁
- 亜臨床性…外見は健康、細胞数(SCC)のみ上昇
- 経済的影響:米国で年間20億ドル超の損失(治療費・乳汁廃棄・生産低下含む)
- 日本のCC97:無症状保菌が多く、早期発見が難しい
SCC
Somatic Cell Count(体細胞数)
乳中の体細胞数で乳房炎の指標となり、衛生管理や品質管理の重要な数値です。
SNF
Solids-Not-Fat(無脂乳固形分)
牛乳中の脂肪以外の固形分で、タンパク質、乳糖、ミネラルなどを含みます。
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T
TMR
Total Mixed Ration(完全混合飼料)
粗飼料、濃厚飼料、ミネラル等を混合し、バランス良く配合した飼料方式です
【関連記事】TMR(Total Mixed Ration)の革新:乳牛飼料管理で収益率向上と健康維持を実現
T
THI
温湿度指数(THI)
乳牛が感じる暑さを数値化する指標として、**温湿度指数(THI)**が用いられます。代表的なTHI算出式は以下の通りです。
THI = (1.8×環境温度 + 32) − (0.55 − 0.0055×相対湿度) × (1.8×環境温度 − 26)
(参考:Karimi et al., 2015)
また、次の式も広く利用されています。
THI = 0.8×乾球温度 + 0.01×相対湿度×(乾球温度 − 14.4) + 46.4
これにより、THIが68〜72の範囲になると乳量の低下が始まり、72以上では繁殖や乳質に影響が出ることが明らかになっています。牛舎内に設置する環境計測機器でリアルタイムにTHIをモニタリングし、早期対策を講じることが重要です。
【関連記事】乳牛の暑熱ストレス対策|THI(温度・湿度)管理と牛舎環境改善ガイド
U
UHT
【関連記事】牛乳の殺菌方法を比較!風味や保存期間に与える影響とは?おいしい牛乳の選び方
V
VFA
VFA(揮発性脂肪酸)
- VFAとは?
ルーメンの中にいる微生物が、エサの炭水化物(草や飼料の糖質)を発酵させてつくる短い脂肪酸の総称。 - 牛のエネルギー源
牛が必要とするエネルギーの約70%をVFAでまかないます。
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